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□笑う
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「火神くん。」
「あ?」
「一緒にご飯食べない?」
「え?」
何故、そんなお化けにでも会ったような顔をするんだ。失礼な。
「黒子くんも誘おうとしたんだけど、居なくて。」
「あー、あいつどこにいるかわからねぇよな。」
火神くんが困ったように頭を掻く。
「君のこと、もっと知りたいんだ。だから私も君に話してあげる。」
キセキの世代のこと。
そう呟けば、彼は眉を寄せる。
ちょっと待ってろ、とお昼のパンを取りに教室へ戻った。





私が見つけたお昼のベストスポットに案内してあげた。
中庭の木の下。裏庭に近いのでとても静かで落ち着く。
自販機で買ったミルクティーのプルトップを開けて芝生に置いた。火神くんは大きなパンを頬張っている。
「火神くんは、バスケいつ頃からやってたの?」
「アメリカ居た時に始めた。」
「アメリカ!じゃあ本場だね。」
「まぁ、強い奴は山程居たな。だからこっち帰ってきて少しつまらなかった。」
同等に渡り合える相手が居なかったから、と彼は言う。
確かに彼はずば抜けてセンスが光っているし、とても良い素材の持ち主だ。
「でも、日本にもすごい人はいるんだよ。」
「キセキの世代、だろ?」
「そう。君、黒子くんのことバスケ出来ない子だと思ってたでしょう。でも彼も立派なキセキの世代。昨日のパスはびっくりしたでしょ。」
私の言葉に素直に頷く。
「お前、キセキの世代の奴等と友達なのか。」
「うん。そうだね。今は連絡とってないけど。中学の時は楽しかったなぁー。」
お弁当のタコさんウィンナーをつつく。
「こうやって、皆で集まってご飯食べたりもしたんだよ。」
「お前、黒子と言ってること全然違うんだな。」
彼の真っ赤な瞳を見て、口を結ぶ。
「あいつ、キセキの世代のバスケは間違ってるからどーのとか言ってたぜ。」
少なくとも楽しそうに話さなかった。と言う。
私はミルクティーを飲んで、火神くんに笑った。
「確かに楽しい思い出ばかりじゃなかったけどね。というか、私そんなに楽しそうに話してたかな?」
火神くんが何個目かわからないパンを口にしながら頷く。
「お前、いっつもヘラヘラしてて楽しそうだよな。」
「悲しんでるよりはいいでしょ。」
さらさらと流れる静かな風が気持ちいい。木の葉の隙間から見える太陽を見た。
「して、火神くん。君はキセキの世代を倒せる自信はあるかい?」
「倒せるかどーかはわかんねぇけど、強い奴とやり合えるなら嬉しいぜ。」
そう言う火神くんの横顔は生き生きしていた。
まるで新しいオモチャを与えられた子供のように。
「 天と地の間には、君の哲学では思いも よらない出来事があるぞ 。」
風が吹き抜ける。
「・・・は?」
「これからを楽しみにしてるよ。一緒に頑張ろうね。」
お弁当箱を包み、ミルクティーの缶を手に取る。
立ち上がって火神くんを振り向いた。
火神くんは呆然と私を見ていた。

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