book2

□薄桜の夢
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ふわり、と香る嗅ぎ覚えのある香り。目を開ければ桃色の花が舞っていた。
今は夏じゃなかったっけ。と、その花に手を伸ばす。
「黄瀬君。」
あれ?
「黄瀬君。」
上半身を起こす。
ひどく懐かしい声。間違う筈ない。大好きな、大好きな、声。
「黄瀬君。」
「梢っち・・・!!」
気だるい体にムチ打って走る。
その細い体を抱き込んだ。
あったかい。
懐かしい。
涙が出た。
「梢っち、どこ行ってたんスか!!!み、みんな心配してたんスよ!!!」
「すみません。」
彼女を解放するが、手は強く握ったまま。彼女は黒子っちとよく似た顔で困った顔で笑った。
「帰ろう!!みんな待ってるッス!!!」
俺が彼女の両手をとって笑うと、彼女はうつむいた。
そして、薄い唇が小さく開く。
「帰れない。」
「え?」
さぁっ、と桜が散っていく。
彼女は首を横に振る。
「ごめんなさい。」
「なんで、ッスか・・・?」
「・・・黄瀬君。」
儚げに笑う。
自分の目に涙が溜まって、彼女の顔がぼやける。俺は首を横に思いっ切り振る。
「嫌、嫌ッス!!俺、梢っちのこと、」
自分の唇に彼女の細い指が当てられた。
「黄瀬君、お願いです。私を見つけてください。」
「・・・ぇ、?」
「私を、見つけて。」




黄瀬君。







「・・・梢っち!!」
飛び起きた時、そこは自分の部屋。
顔は涙で濡れていた。
『見つけて。』
髪を鷲掴み、ぐしゃぐしゃと掻きむしる。
「見つけてって・・・、どこを探せば見つかるんスか・・・!」
涙がボタボタ溢れて、布団に顔を押し付けて泣いた。
どうしたらいい。
どうしたら、


「黒子っち、青峰っち、桃っち、緑間っち、紫っち、赤司っち・・・、」
一人じゃできない。
みんなで、みんなで、やらなきゃ。





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