book3

□ひとりぼっち
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「織部さん。起きて。」
「うん?」
あたしの肩を揺するのは、相田さん。
「これから桃井と校舎に行くの。保健室に行って救急セットを持ってこようと思って。手伝ってくれる?」
外はもう明るかった。男たちはまだ眠っている。
断る理由もないし行こう。
黄瀬のジャージを畳んで置く。
三人で校舎へ歩いた。




外は思ったより清々しく、気持ち良かった。
校舎へ続く扉は簡単に開く。昼間はこうして安心出来るからすごくありがたい。
保健室、と書かれたドアに入った。
二人はマネージャーなのだろう。てきぱきと必要な救急セットなどを手にとっている。
あたしは何も出来ることがない。二人が持ちきれない荷物を持ってあげるだけだ。
体育館へ戻って救急セットを置くと、あたしは外に出て深呼吸をした。
ああ。何もかも息苦しい。
帰りたい。
と。
「あれ?」
少し離れたところで同じ年くらいの女の子がしゃがんで泣いている。
もしかして、あたしみたいに巻き込まれたんじゃ。
「どうしたの?」
彼女はシクシクと泣くばかり。真っ黒くて長い髪に覆われて顔が見えない。
「どうしたの?」
もう一度問う。
「友達が居ない、寂しい、」
ああ。急に飛ばされたから気が動転しているんだろう。
女の子に合わせるようにしゃがむ。
「大丈夫。あたしが居るよ。」
「ほんとう?」
「うん。」
「ほんとうに、ほんとう?」
「うん。だから、」
「ずっといる?」




「は、」




その言葉を理解するのに時間がかかった。
気付いたら女の子はあたしに馬乗りになっていて、あたしの首を締めていた。
女の子の顔は醜く歪んでおり、目は目玉がなく空洞のようになっていて、口は耳まで裂けていた。
「いっしょ、いっしょ、ずっといっしょ、ふふふふふふ、」
声が出せない。息が出来ない。体に力が入らない。
誰か、誰か、
たすけ、



ドォッ、
という音と共に女の子は吹っ飛ばされた。
急に入り込んだ酸素にむせ返る。
後ろを振り向くとショットガンを持った笠松さんが居た。
「行くぞっ!!!」
あたしの手首を持って走る。
体育館に転がり込んでドアを固く閉ざした。
必死で息をしていると、周りの視線に気づいた。
息を飲む。
皆冷たい目をしていたから。
立てずにいるあたしに赤司が歩いて来た。
「どういうことだ。」
「・・・泣いてたから、あたし達と、同じかと思っ、」
赤司を見上げる。
射抜くような冷たい視線に固まった。
「ま、まぁまぁ、織部っち、無事でよかったっス。」
黄瀬が慌てて声をかけてきた。
「ねぇ、」
低い、地を這うような声。
それにビク、と体が震える。
「その子が来たからじゃない。」
「え、」
「その子が来たから昼間にも化物が出る様になったんじゃない。」
「むっくん!!!」
桃井さんが紫原とかいう奴をたしなめる。
そんな、あたし、何もしてない。
そう言葉にしたいけどできない。違う違う。あたしじゃない。
「何言ってるんスか!そんな訳、」
「そうかもしれないな。」
黄瀬の言葉に赤司の容赦ないセリフが被る。
「君が原因かもな。」
心臓に何かが突き刺さったみたいだった。
「赤司君、やめてよ。そんなわけないじゃない。」
今度は相田さんが怒ったように傍へ立つ。
「けれど事実です。」
「たまたま現れたのよ。そうに決まってる。」
「3日間何をしていたんです。」
赤司の言葉に相田さんが目を伏せる。
その様子では、3日間、日が高い時は確実に化物は出なかったということだ。
けれど、あたしが来てから、それは突然現れた。
皆を見回す。
なんとも言えない表情。
疑っている表情。
苛立っている表情。
哀れんでいる表情。
ああ、神様、
どうしてこんなところに連れてくるの。
す、と立ち上がり、外へ出ようと歩く。
「どこ行くんだ。」
すれ違い様に笠松さんが呟いた。
「織部っちのせいじゃないっスよ!戻っておいで!!」
黄瀬、相田さん、桃井さん、助けてくれた笠松さんには申し訳ない。
「出てく。」
「何言ってるの!!」
相田さんがあたしの腕をつかんだ。
「ここに居たらきっと、あたしの不幸が伝染する。」
「だからあなたが悪いと決まった訳じゃ、」
「お前が悪いって言ってる様なものじゃない!!!!」
相田さんの手を振り払った。
「少しでも頼ってたあたしが馬鹿だった。少しでもあんたらの心配したあたしが馬鹿だった。」
仲間じゃない。お前はイレギュラーだ。そう目が訴えてるんだからわかる。
「あたしが居なくなれば、昼間に化物も出なくなるでしょうよ。ねぇ?」
「織部っち・・・、」
「こんな訳もわからない世界に急に放り出されて、頼る人も、慰めてくれる人も居ないあたしの気持ちがわかるか!!!!」
ああ、もう馬鹿みたいだ。
子供みたいに喚いて、馬鹿みたいだ。
「不安なのは皆同じだろーが!!!!」
横に居た笠松さんが怒鳴った。
でも、怯まない。もうこうなったら全部ぶちまけてやる。
「あたしには何もない!!!!!お前らの不安と一緒にするな!!!!!」
体育館のドアを思いっきり開ける。
「織部っち!!!!」
黄瀬があたしの腕をつかんだ。
少しは、黄瀬とか、相田さんとか、桃井さんとかには、
感謝してる。出来れば友達とかになれたらなぁとか思ったりして。でも、ごめん。
「・・・ばいばい。」
それは勝手なあたしの願望だ。
温かい手を振り払った。
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