book3

□世界の終わり
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気付いたら体育館内は静まっていた。全て倒したらしい。
「皆、油断したらあんで。夜の間は何起こるかわからへん。できるだけ固まっといてぇな。」
今吉さんが大きな声て言う。
床には血がほとばしっていた。
武器を持っていた人達は、参ったように座り込む。
当たり前だ。この年齢で、この日本で銃なんて普通持たない。
しかも何かを殺すために。
「さっきはありがとう。」
目に涙を溜めた相田さんがあたしに頭を下げた。
「いえ・・・・気付いたら体が動いてました。」
「本当にありがとう。」
土田さんもお礼を言ってきた。
というか何で体が動いたんだろう。普通の人なら固まると思う。
「織部は武道か何かをやっていたのかい?」
赤司がまたあの笑顔で聴いてきた。コイツ苦手だ。
「やってない。昔、やんちゃしてた時があったから、自然に身についただけ。」
「ふぅん。」
興味なさげに頷くけど、あたしを見つめて反らさない。
何の拷問だこれは!
「あらあら、征ちゃん。女の子をそんなに詮索したらダメよ。」
「少し気になってしまってね。」
後ろから実渕さんが出てきた。
というか本当にオネェだった。この人。
赤司はあたしに微笑むとスタスタと去って行った。
「何、あいつ・・・。」
「気を悪くしたらごめんなさいね。征ちゃんって不思議な子なのよ。」
「実渕さんが謝る必要はないでしょう。」
「ふふ、征ちゃん。あれでもあなたのこと気に入ってるみたいよ。」
え、嫌だ。何で。
実渕さんは優雅に笑って、赤司の後を追う様に歩いて行った。
「織部っち。大丈夫?」
「え、あ、うん。って織部っち・・・、って何?」
「あ、俺尊敬する人には、〜っちってつけるんスよ。」
うん。すげえいらない。
「あの時の蹴り、すごかったっス!!それより顔色悪いっスね。本当に平気?」
「・・・あんなもの見て顔色悪くしないあんたらの方が心配。」
黄瀬は困った様に笑った。
「もう馴れたっス。」
「ここにいつから居るの。」
「もう三日くらいっスね。」
三日したら馴れるの。
ううん。そんなわけ無い。馴れなきゃいけないんだ。この非現実的な世界に。じゃないと生きていけない。
「・・・ちょっと休もうかな。」
「あ、じゃあ俺のジャージ羽織っていいっスよ。寒いでしょ。」
お言葉に甘えて大きなジャージを受け取る。後ろで「黄瀬!それは俺の仕事だっ!」と訳わからんことを森山さんが言っているが気にしない。
黄瀬のジャージを頭から被る。体が大きいからあたしの体なんてすっぽり収まる。
隅っこに行って体育座りをした。
周りの彼らは、楽しそうに話したり、真剣に話したり、寝ていたり、様々だ。
いいな。なんて少しだけ思った。
彼らはチームメイトで仲間だ。けれど自分は違う。知り合いでもない。黄瀬だって仲間だからこのジャージを貸したんじゃない。赤の他人にジャージを貸すということ。それだけだ。顔色が悪いとか心配していたけど、仲間にするような深い心配ではない。
「・・・・・・帰りたい。」
一人の方が余程楽だ。
鼻の奥が痛くなる。立てた膝に顔を埋めた。
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