book3

□鶴
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「気をつけて。くれぐれも日が落ちる前には戻るように。」
秀徳組と桐皇組が赤司の言葉に頷き、武器を持って体育館を出ていく。
「これまでの偵察で収穫はあったの?」
「これと言ったものはないんだ。だが、」
赤司が日向さんに会釈すると、日向さんは頷いて、大事そうに袋を持ってきた。
「・・・折り鶴?」
その袋には可愛らしい千代紙で折られた鶴が2つ。
「これは校内に落ちてたんだ。」
日向さんが鶴を訝しげに見つめて言う。
飾られているならわかるが、これが点々と落ちていたら気味が悪いし気になる。
「これが何かの手がかりになればと思うのだけど、」
うーん。と考える。
と。
「あれ?」
体育館を見回す。
「どうしたんだ。」
背筋が凍る。
血の気が引く。
呆然としながら赤司を見た。
「も、桃井さんが、」
いない。
そう呟くと、皆一斉に桃井さんを探し出す。
と。
「赤司君!!裏口が開いています!!!」
黒子が見つけたのは、開きっぱなしの裏口。
まさか、勝手に。
携帯は使えないから向こうの二組に連絡はできない。
桃井さんの笑顔が脳裏に浮かんであたしは咄嗟に体育館に戻り、2丁の拳銃を持った。
「織部さん!危険です!ここはあなたが行くべきではありません!!!」
「ダメ!あたしが行かないと、」
「桃井さんが万が一倒れてたらあなた一人でどう運ぶんです!?」
黒子ってこんなに感情を出せるんだ。と呑気に思った。
「じゃあ誰かついてきてよ。それなら問題ないでしょ。」
「ですが、また狙われたら、」
黒子の言葉に笑う。
「さっきは確かに怖かったけど、あたしだって桃井さん連れて逃げるくらいはできる。それに運動神経だっていい方だよ。」
元不良なめんな。
そう言うと、黒子の後ろから赤司が出てきた。
「・・・いいだろう。」
「赤司君!!!」
「二つ条件がある。一つは火神大我を連れていくこと。一つは、絶対に帰ってくること。」
「俺!?」
驚く火神をよそに、赤司を見つめて頷いた。
「黒子。ありがとう。」
「・・・お二人とも気をつけて。」
黒子の顔を見て微笑んでから走る。火神が武器を拾いながら、あたしに続いた。





校内は歩く度に不気味に軋む。
慎重に慎重に歩く。
窓から溢れる光が場違いに優しい。
「いねぇな。」
「どこかに隠れてるのかも。」
と。奥の教室の戸がゆっくり開いた。
火神と同時に構える。
何が出てくる。
汗が出てきた。どくどくと全身が脈を打つ。
「あ、」
目が合ったのは、怯えた桃色。
「桃井さん!!」
「千鶴ちゃん!!!」
桃井さんの所まで走って、教室に入る。
「ダメじゃねーか一人で行ったら。」
火神は怒ったように言うが、その声音は優しい。
「ごめんなさい、あの、違うの。聴いて。」
カクカクと桃井さんが震えているのがわかった。桃井さんの口に耳を近付ける。
「気づいたら、ここに居たの、どうしようと思って、大ちゃんたち見つけようとしたんだけど、」
気づいたら、ここに?
桃井さんがヒクヒクと喉を鳴らす。嘘は言っていないのだらう。怖かっただろうに。
「あの、」
突然聴こえた声に桃井さんを庇うようにして構えた。
机の下から出てきたであろう男子生徒が居た。知らない制服だった。
「あ、待って。この人もここに来ちゃったみたいなの。」
桃井さんが焦ったように弁解する。彼が危険かと言われれば無害に近い。桃井さんが襲われていないのだから大丈夫と言えるだろう。
「小林君って言うの。」
「あ、迷っていたところを助けてもらいました。」
小林を頭から爪の先まで見る。
「とりあえずこっから出るか。」
「あたしと火神でちょっと見てくる。桃井さんと小林は待ってて。」
二人は頷き、机の下に座り込んだ。
教室を出て、廊下と階段を二人で見渡す。化物はいない。
「なぁ、何か、」
火神が呟く。
「静かすぎねぇか。」
その言葉に周りをもう一度見渡す。
たしかに、どこにいるかは知らないが秀徳組と桐皇組もいるのだ。いくらなんでも物音一つしないのはおかしい。
背筋に悪寒が走る。
と。
「きゃあああああああああ!!!」
桃井さんの悲鳴に慌てて教室へ戻る。戸を思い切り開けて、目を見開いた。




なんだこれは。
なにがおきている?
これはげんじつ?



黒板に、まるで虫の標本のようにぶら下がっているのは先程の小林だろうか。
わからない。
顔の穴という穴から血を垂れ流し、目は白目を剥いていた。腹部は大きく裂かれて臓物が床にぶちまけられていた。
どちゃり、と下半身が落ちた。
思わず口を覆う。気持ち悪い。こんなのは非現実的だ。
ありえない。
火神も口をはくはくと動かすだけだ。
桃井さんは、最早原型を留めていない小林に目を向けて固まっている。
だめだ。
ここに居ては危険だ。
にげなきゃ、にげなきゃ、にげなきゃ、にげなきゃ・・・!
体を奮い立たせ、火神の背中を叩く。彼の体がびくりと反応してあたしを見た。
「ここに居ちゃダメだ。出よう。桃井さんを、」
火神は一つ頷き、桃井さんを片手で抱えた。
血なまぐさい臭いが鼻をつんざく。
誰がやったか知らないが、このままでは秀徳組と桐皇組も危ない。
戸を開けて、教室から出る。
うかつ、だった。





目の間の化物に思い切り殴り倒された。
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