隠し物語

□雲雀と綱吉
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雲雀は肩を竦めた。
必死に怪談を否定する綱吉の気持ちが理解できないのだろう。

「怪異はあるから…」

「かいい?」

聞きなれない言葉だ。
ひらがな発音で言い、綱吉は首を傾げた。

「怪談とか…この世じゃない現象の事。詳しくは知らなくていいよ」

「はぁ」

「で、まだ怖いの?」

「怖いです」

そこは譲れなかった。
何に譲れないのか定かではないが、きっぱり言う綱吉に雲雀はなら、と続けた。

「もし何かあったら僕が守ってあげる」

「へ?」

「これなら怖くないでしょ?」

そう言うと雲雀はまた歩き出した。
さっさと行く雲雀に綱吉は慌てて追いかける。
追いかけながら思う。
もしかしたら雲雀は自分を元気つけてくれたのだろうか、と。
自惚れかも知れないがそうだったら少し嬉しい。
そして、そう思ったら恐怖も少し薄れてきたのだから不思議だ。



「ついた、祠…」

祠に置いてある石は三つ。
紫と橙、そして藍。
藍色の石が一つ残っているのは骸の分だろう。
綱吉は橙と紫の石を拾う。
これで帰れると思ったら気が楽になった。

「―――っ!?」

急に、空気が重くなったのを、感じた。
まるで威圧されているような、変な緊張感。

ズル…、ズル…、と何かが這う音。
異臭を放つそれはどこから。
ガタガタッ。祠が揺れる。
キィーと古びた音がし、祠の戸が開く。
異臭がさらに強くなった。
ズル…、ズル…、と這う音が大きくなる。
祠から伸びてくるのは、

白い、手。

「ぁ……、ひ、ぁ…」

言葉にならない悲鳴。
逃げたくても足が動かない。

「だ、だれ…」

誰でもいい。
助けて。


ー守ってあげるー


先ほど言われた雲雀の言葉が耳に響く。

「ひ、ひば、りさん…!」

すがりつくように綱吉はそう叫んだ。

「沢田綱吉!!」

ぐい、と腕が引っ張られ尻餅をついた。

「こっちだよ…」

漆黒の髪を靡(ナビ)かせ雲雀がそう呟く。
そして、どこか妖艶に、蠱惑的にほほ笑んだ。

「僕のほうが、上物だろう……?」

白い手がいっせいに雲雀に向かっていった。

ズル…、ズル…、ズル…、ズル…、ズル…、ズル…、ズル…、ズルッ!!

雲雀の全身を覆うほどにそれは。
まるで生きているかのように、手が這いながら雲雀を襲う。

「ひば…」

伸ばした手は空をかいて。

「……あれ?」

気づいたらそこには何もなく。
ただ、尻餅をついた綱吉が一人いるだけで。

「え…?」

コロ…、と懐中電灯が何かがあったことを認めさせるかのように、転んだ。
 
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