隠し物語
□祠
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あの時とは違い威圧的な空気は感じられない。
ただ夜の山独特の雰囲気が辺りを占めるだけ。
「なんか、空気が違う…?」
祠に近づこうとしたのを骸が腕を引っ張り、引き留める。
見れば骸は眉間に皺を寄せ、綱吉を睨み付けていた。
「僕より先に行かないでください。守れないでしょう」
「え?」
「いざとなった時、守れないようじゃ困ります。後ろにいてください」
守る。
骸は今、自分を守ると言ったのか。
綱吉は数回瞬きをすると少し口を綻ばせた。
「なんですか?気色の悪い」
「いや?なんでも?」
骸は気づいていないのだろうか。
敵と認識している人間を守るという矛盾に。
その矛盾に気づき、綱吉は何となく嬉しく感じた。
「さて、明け方までには連れ戻さないといけないですよね…」
「そういや、まだ教えてもらってないけどさ。時間がないって、なんで?」
「簡単ですよ?」
くるりと人差し指を回し、事もなさげに骸は言った。
「怪異には自ずと条件があります。神隠しの――今回の場合は明け方までがタイムリミット。過ぎれば神隠しにあった者は帰れない」
よほど運のいい者しか帰れない。
だから明け方までに連れて帰らなければいけないのだ。
それを聞き、収まっていた焦燥感がまた募ってきた。
「じゃ、じゃあ、早くしないと…」
「焦っても仕方ないですよ。何かきっかけがないかぎり……」
そこでちらりと骸は綱吉を見た。
その視線の意味がわからず綱吉は首を傾げる。
ついでとばかりにある疑問が浮かんだ。
「なんでオレなんだ?」
「と、言うと?」
「いや、オレじゃなくても山本とかお兄さんとか…オレ以外にも連れてきた方がよかったんじゃないか?」
「ダメですね。被害が大きくなるだけです」
骸は重いため息をついた。
半眼で綱吉を見つめる。
「めんどくさい人ばかり集まりましたね、本当」
「うるさいな!だいた……」
『……く、は』
「?どうしました?」
「声…」
「え?」
「声が、聞こえた…」
今、確かに。
あの人の。
雲雀の声が、聞こえた。
『ぼ…くは…、こ…』
何を伝うようとしているのだろう。
わからない。
けれどわかる。
矛盾しているけれど、確かにわかる。
「呼んでる」
雲雀が、確かに。
自分の居場所を教えている。
怪異にあいながらも綱吉に。
綱吉は呼ばれるままに歩を進める。
向かう先は、祠。
「な…!?ボンゴレ!?」
迷いなく祠に向かう綱吉には、先ほどまで感じていた焦燥感がなくて。