隠し物語

□脱出
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重い空気の中、血が付着した地面が蠢く。白い手が何本も現れ、空間を抉じ開けるような動きを見せた。

「ひっ…っ」

その光景に、悲鳴をあげ綱吉は後ずさった。

「なっ、え……、む、骸…それ…」

震える指で白い手を指差しながら、訊くが骸は何も答えない。目を閉じ、額に脂汗をかきながら集中しているようだった。

「やっぱり、君は…」

雲雀が苦々しげに呟くと綱吉の腕を引っ張り、自分の後ろに放り投げる。いきなりの行動に綱吉は抵抗することもできず、背中に強く地面をぶつけた。

「君は…」

トンファーをかまえ、集中している骸に近づく。

「雲雀さん!?」

何をするつもりだと顔を青くし、叫ぶが雲雀は聞く耳を持たない。トンファーを振り上げ、骸の眉間に迷いなく降り下ろす。

「開いた」

トンファーが眉間に当たるその直前に骸は呟いた。ピタ…、と髪一本分の隙間を残し、トンファーの動きが止まる。
見れば、白い手に覆われた空間の一部が歪み、穴が空いていた。

「さて、とっと入ってください」

「ふげ!!」

骸はトンファーを無視して、綱吉の元に行くと、そのまま穴の中へ蹴り飛ばした。情けない声を上げながら綱吉は穴の中に吸い込まれていく。

「君も入ってください」

「……」

骸はニッコリとわざとらしい作り笑いを浮かべながら言う。雲雀は警戒するようにトンファーを胸の前でかまえた。

「君は……、何?」

「何、とは?」

「人間じゃないよね。一体何なの?」

雲雀の詰問とも呼ぶべき質問に骸は考える素振りを見せた。
そして、そのまま嘲るように笑う。

「人間ですよ。ただ…」

胸に手を当て、言う。

「化け物、でもありますがね。……そして、それは君も同じだ」

その言葉に雲雀はトンファーを握る手に力を込めた。そして、かまえを解き、トンファーをしまう。

「そんなこと……」

穴の中に片足を入れ、呟く。

「わかってるよ」

そう言うと雲雀は穴の中へ躊躇なく入っていった。

『ア…、アアア、ジョモノ…、ミ、ツボ…、シィィイ』

神隠しの核たる存在が雲雀と綱吉を追いかけようと、穴に手を伸ばす。

「いけませんよ」

それを骸が三叉の槍で食い止めた。

「雲雀恭弥はともかく、沢田綱吉は僕の獲物だ。…人のものを奪うのは感心しませんね」

『ジャマヲスルナァァァア!』

「消えろ」

ポコリと地面が盛り上がり、火柱が化け物を襲う。肉が焼かれる不快な臭いに顔をしかめながら骸は穴の中に入った。

『コノ…っ、バケモノガァァァア』

「君に言われたくありませんね。…喰らえ」

手が、化け物に群がり襲う。
そして。

そして神隠しは消えた。
 
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