隠し物語

□霊症
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「……ガラス?」

「正解。透明なガラスが中に入っている。つまりこういうこと」

「は?」

全く意味がわからない。何がこういうことなのだろうか。

「水に入ったガラスは一見、何もないように見えるけど触れればある。そして触れたらもう水の中にガラスがあると認識する。怪異も同じなんだよ」

今までは認識しなかったものでも触れれば脳が怪異はあると認識する。
そして、そうなれば今まで見えなかったものが脳が認識し、視えるようになる。
雲雀が言いたいのはそういうことだろう。

「え、じゃあ幽霊って怪異なんですか?」

「正確には怪異になれなかった微弱な存在、だよ。それでも怪異と似かよっているから視えるんだ。僕はこれを霊症って呼んでる」

「へ、へ〜」

だから今までは見えなかったのに、いきなり視えるようになったのか。
……つまり、今までも気づかなかっただけで血だらけの男性とか号泣している女性が家にいたということだろうか。……、考えただけでも気が滅入ってしまった。

「だからこれあげる」

先ほど、引き出しから取り出したのを雲雀は綱吉に渡した。
渡されたのは乳白色の瑪瑙でできた数珠だった。

「これで君の霊症を防ぐ事ができる。身につければ幽霊は視えないよ」

「あ、ありがとうございます」

早速身につければ、確かに幽霊が見えなくなった。

「あ、あの…」

「なに?」

「何で、そこまでしてくれるんですか?俺がミツボシと呼ばれた事に何か関係あるんですか。」

ミツボシ。神隠しの怪異が言っていた言葉。あれは綱吉に向けられた言葉だ。

「さぁ?君には関係ないよ」

「いや、関係ないって…」

「守ってあげると、言っただろう?」


――なら僕が、守ってあげる


並盛山で言われた言葉。
それに綱吉は虚を付かれたように目を見張ったが、すぐに嬉しそうに破顔した。

「あ、あともう一ついいですか?」

「何?」

「山本も霊症?に罹っているみたいなんですけど…」

幽霊が視えることが霊症ならば山本もそうだろう。ならば、自分と同じく瑪瑙の数珠を貰えないだろうか。

「山本武…。彼については、君は干渉するな」

「へ?」

「彼の場合は霊症とは少し違う。君は、関わらない方がいい」

「いや、でも…」

「体質なんだよ、あれは」

「体質…?」

それはつまり幽霊が視える体質…霊感があるということだろうか。

「必要とあれば、僕がなんとかする。それよりも…」

雲雀が何かいいかけた時、授業の開始を知らせる本鈴が鳴った。

「……早く、教室に行きなよ」

「は、はぁ」

雲雀は何を言いかけたのだろうか。気になりつつも、授業に遅れては雲雀の逆鱗に触れると判断した綱吉は急いで教室に向かった。

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