隠し物語
□直感
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いったい彼の身に何があったのか。
「獄寺、何があったんだろうな……」
山本も同じようなことを考えていたのだろう。誰も座っていない獄寺の席を見つめながら呟いた。
ただの風邪だったらかまわない。けれどマフィア絡みで何かに巻き込まれていたら? 自分たちは継承式の際、多くのマフィア関係者に顔を見られた。もう、マフィアに命を狙われないということはないのだ。事実、継承式の時に自分がボンゴレボスに就任するのを阻もうと暗殺者が襲ってきたのだから。
それにしても獄寺が電話に出ないということが気になった。
それはとりとめないことかもしれないけれど、それでも引っかかるのだ。
それは自分の持つボンゴレの血、ぶらっとオブボンゴレの超直感が訴えているのか。
「放課後、獄寺君の家に行こうか」
きっと電話をかけても獄寺は出ないだろう。ならば、直接会ったほうがいい。
綱吉の提案に山本は朗らかに笑い、頷いた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。生徒たちが自分の席に座る。
何でもない光景だ。見慣れてきた、日常の一コマを描いたかのような光景。
けれど、それはすでに崩れ壊れてしまっているのだと、気づいたのは次の日だったのだ。
◇ ◇ ◇
黒い靄が、覆い薄暗い空間を作り出していた。
「……やはり、やっかいだな」
さすが三ツ星と言われているだけはある。特別な血をその身に宿し、それゆえに持つ能力は実に厄介だった。
見透かす力。その力を同じく持つあの老獪な老人は神の采配とまで謳われるほどだ。同じ力を持つあの子どももまた、同じく見透かす力を持っている。
これだから三ツ星は厄介なのだ。
だが、邪魔だからと安易に殺すことは叶わない。あの町は、彼の結界で守られている。あの町で問題を起こせば彼はすぐに自分の存在にくづくだろう。それは今は避けたいところだ。
それに、あの三ツ星にはまた別の存在が目を付けている。厄介な、人間を止め、されど化け物にもなりきれていない、行きながらの屍が。
あの屍を相手にするのはできればしたくない。人間でも、化け物にもなりきれていないからこそその二つを時空を自由に行き行きできる。その力は恐ろしいものだ。
それにどうやら、あの町にはブラットオブボンゴレの血筋同様、特別な血統のものがいる。彼は今は力を封じられているが、目覚められては少し厄介だ。
「まったく。並盛とはよく言ったものじゃないか。ぜんぜん、並ではないよ。何せこんなにも化け物が集まっているのだからね」
よくもまぁ、ここまで集まったものだと感心してしまう。
「君も、そう思うだろう? ゴクテラハヤトクン」
問いかけに反応するかのように銀色の髪が、かすかに揺れた。