隠し物語

□直感
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 空気がおかしい。
 そう気づくのにそう時間はかからなかった。空気が嫌に淀んでいる。獣臭さが校内に充満し、鼻が曲がりそうだった。

「委員長」

「どうだった?」

 調査を頼んでおいた草壁が一礼して資料を渡してくる。それに目を通しながら草壁の説明に雲雀は耳を傾けた。

「どうやら最近“こっくりさん”というものが流行っているらしいです。それが校内の変化の原因かと」

「“こっくりさん”、ね……。わかった。下がっていいよ」

 一礼し静かに部屋を出る草壁。自分より弱いが、こうして自分の意思を組み最適な行動をとってくれるため彼は重宝している。今もこうして何も言わず必要なことを必要な分だけ調べてくれた。見れば茶が湯気を立てて湯呑に入っていた。きっと草壁だろう。気の使える人間は好ましく思う。
 お茶を飲みながら草壁からもらった資料に目を通した。
 一、“こっくりさん”が流行りだしたのは約一週間前。これよりも以前から行っている者はいたらしいが、ここまではやりだしたのは最近のことらしい。
 二、“こっくりさん”を行ったものは数日後、様子がおかしくなる。まるで獣のようだという。
 三、誰が初めのやりだしたのかわからない。
 以上が草壁が持ってきた資料の概要だ。

「誰かわからない、か……」

 それは実際あり得ることだろうか。いや、ありえないことだろう。広い町や国という単位であれば特定しにくいのはわかる。だが、ここは公立の中学校、どこにでもある並な学校だ。人数も限られている中、しかも流行りだした時期がわかっているのに原因が分からないなどあるのだろうか。草壁の捜査能力を疑うことなどない。彼の捜査能力は一級品だ。
 ならば、これはいったいなんなんか。

「面倒なことが起きているようだ」

 しかも、それは怪異がらみとみていいだろう。厄介としか思えなかった。
 ただでさえ三ツ星を抱え、あまつさえ大きな爆弾も抱えているというのに。
 “こっくりさん”は降霊術だ。低級の動物霊を呼び出す儀式。手順さえ間違えなければ危険はないがほんの少しでも間違えば霊は悪霊に変わり、人を襲う。この校内に獣臭さが充満しているのはきっと“こっくりさん”の影響だろう。

「さて、どうしようか」

 背もたれにもたれ掛りながら窓の外を見てみれば、それはいっそ忌々しいほどに青く澄み渡っていた。


◇ ◇ ◇


 獄寺が学校に来ない。
 一週間前、昼休みにパンを買いに行ったと思ったら急に早退をした彼はそれから一度も学校に来ていなかった。
 何かあったのかと思い、獄寺に電話をかけてみても留守電だけで、本人が出ることはなかった。
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