隠し物語
□ミツボシ、上物
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重々しい威圧的な空気。
それは今、怪異が起こっている証拠。
その空気に耐えながら骸は祠を睨み付けた。
その視線の先には待てと言ったのに聞かなかった少年。
その少年も今は神隠しの怪異にあっているのだけれども。
けれどそれはあり得ないことだった。
いくら“ミツボシ”だからと言っても無理やり怪異の意識を自分に向けるなど。
まして今神隠しにあっているのは“上物”なのだから。
「なめるなよ、怪異風情が…」
普段、口にしないような口調で骸は呟く。
有幻覚で生み出した三叉の槍の切っ先を迷わず己の腕に突き刺した。
腕に灼熱が駆け巡る。
それを堪え、骸は血を地面にし垂らせた。
途端、空気がよりいっそう重くなる。
白い手が何かに無理矢理引き寄せられたかのように、祠から飛び出てきた。
《アアアアアアアアア!?アアアアア、アアアア!!》
悲鳴。悲痛な、鳴き声。
ぼこりと地面が盛り上がり、白い手が新たに現れた。
亀裂が生まれる空間。
骸はその亀裂に切っ先を突き刺した。
◇◇◇
「え…と、どこ?てか骸は?」
キョロキョロと見渡す場所は並盛山とはまったく違う場所だった。
山は山だがまず夜のはずなのに、明るかった。
そして最後にして最大の違い。
近くに村があったのだ。
「村…?」
現代ではあまりない作りは昔のそれでこそ何百年も前の造りで。
ひょっとしたら山に囲まれた村なんかに似ているのかもしれない。
道は整理されているがコンクリートではなく。
田んぼには手作業で苗を植えていて。
それにも少しおかしいと思った。
田植えの時期は終わっているはずなのだから。
水車がカラカラと回っている。
「ここに、雲雀さんが…」
ゴクリと固唾を飲む。
そして恐る恐る綱吉は村に入った。
「あらあら、お客さん?珍しいわね」
女性の声がした。
藤色の浴衣には桜の意匠が拵えてある。
切れ目の瞳はどこまでも黒く吸い込まれそうなほどだ。
整った面立ちは日本人形のようで。
そして、どこか見覚えのある人だった。
「あ、あの。人を捜していて」
その美貌に見惚れながらも、たじたじと綱吉は言った。
過ぎる美しさは毒だ。
どことなく生きている気がしない。
「人?誰かしら。協力するわよ」
「あ、はい。あ、ありがとうございます」
穏やかに言う女性に綱吉は頭を下げた。
そして捜している者――雲雀の名前を言おうとしたところで止めた。
小さな子どもが女性の足に抱きついてきたのだ。
女性と同じく艶やかな黒墨の髪。