大江戸恋絵巻

□大江戸恋絵巻
5ページ/7ページ




「…何を手間取っている」



突き刺さる春日局様の冷たい眼差し




『じっ…自分で着ようと思って…』




俯きがちに答えると



聞こえた溜め息




「稲葉。もう下がっていい」



「…分かりました」




心配そうな視線を向けてから



稲葉はそのまま部屋を出ていく







一拍の間のあと




「上様は町民のように自分の手を煩わせる必要はない」




聞こえた一言







『でもっ…私は本物じゃなくて影武者だし…』


「ほぅ…影武者の自覚はあるのに私に口答えする気か?」


『っ…』



逆らえない威圧感に唇を噛み締めると



春日局様は目の前まで歩み寄ってくる





そして




「特別に私が着付けてやろう」



押さえてた帯を剥ぎ取られた





『…あっ…』



帯がなくなった事によって小袖がはだけてしまう




慌てて袷を掴むと



春日局様が腰を引き寄せた





稲葉の時よりも近すぎる距離に



思わず心臓が脈打つ





「どうした?随分と大人しいんだな」


『そんな事っ…』




耳元で聞こえる低音の声に



ますます鼓動が高鳴っていく





髪の間から見える小姫の赤い耳に



春日局はふっと笑う




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ