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□春の一日
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ぽかぽかと暖かい日差しが差し込む部屋で僕と零崎は何ともなしにテレビを見ていた。

「欠陥てさ」
「…うん?」

小さくて可愛らしい人間失格は腕を前に伸ばしながら僕に話しかけた。
ちなみに今こいつは座っている僕の足の間にすっぽりと収まっている。
僕は目線を画面から話しかけてきた相手の後頭部に移した。

「俺の髪触んの好きだよな」
「…そうかな?」
なんて言いながらも僕は零崎の髪をくるくると指で弄る。

「ほら、また触ってる」
「…そうかもね」
否定はしない。
軽くて柔らかい零崎の髪は触り心地も抜群に良かった。
…まぁ、比較対象が普段髪をなかなか洗わない玖渚だから詳しいことは言えないのだが。

「…ああ、そういえば」
「ん?」
適当な雑談を繰り広げようと僕が放った言葉に反応して、零崎は振り向いた。
開いていた口を思わず閉じてじっと、零崎を見つめる。
「……」
「欠陥?」
黙ってしまった僕を不思議そうな表情で見上げている。
「おーい、けっかーん?」
くい、と首をかしげて僕のことを覗き込んでくる姿は、何というかまあ、可愛かった。
足に収まった姿勢はそのままで、零崎は体を180度回転させた。
さらりとした感触が僕の掌を撫で、逃げていく髪に多少の未練が残る。
髪の一本一本まで愛おしく感じるのは相手が零崎だからなのか、はたまた僕の無意識のうちに特殊な嗜好が生まれていたからなのか。

そんなことを考えているうちにしびれを切らした零崎のやつが僕の頬をぺし、と柔らかく叩いた。
その行為は脳に痛みを伝えるものとしては不充分だったが、きっかけとしては充分だった。

「―――へ。…え?」

ぎゅう、と音でもしそうなほどに零崎を抱きしめる僕の姿はどのように映ったのだろう。

「…何、どうした?」
心配しているのか照れているのか判断しにくい零崎の声を無視して抱きしめ続ける。
徐々に伝わる体温は、暖かくて気持ちがよかった。
しばらくそのままでいると零崎も追及を諦めたのか僕の背中に腕を回した。
腕にすっぽりと入ってしまうあたり、やはり華奢なんだと思う。
さわさわと柔らかい髪の毛が僕の頬をくすぐった。
「…あれ」
「ん?」
腕に入れていた力を緩めて口を開く。
「零崎、シャンプー変えた?」
「多分…そうなんじゃねーの?てか、なんでわかんだよ」
やだー気持ち悪ーい、と零崎はおどけて笑う。
「…いい匂い」
「あっそ」
軽い調子でそう言うと、零崎はするりと僕の腕から逃げ出し、立ち上がった。
…残念。

「なぁ欠陥製品」
「何?」
顔を上げた僕の前には
とびきり笑顔の殺人鬼が居た。
「駅前にできたてのカフェがあるんだけど」
「…それで?」
「…俺、パフェが食いてぇなぁ。」
にやり、と笑う姿まで愛しく感じる僕は。
嗚呼もう。
「…出かけようか。人間失格」
「おう。」
気前がいいなー、なんて嬉しそうに笑う零崎を横目に僕は少しだけ口角を上げた。





甘い時間を君と過ごそう。




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