ライオンとネコ

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ぱちり






「んんっ……ん…?」

目を開くと、肌色が見えた

ぼんやりとした頭で何も考えずに手を伸ばすと、暖かい

格子状のように入っている溝をなぞると、その肌色が揺れた

それがなんだか面白くて、するすると全ての溝をなぞろうとする

しかし―――――

「っ…おいおいおい……躾がなってねぇ奴だな…」

「ふ…?」

ぐっと腰を引かれ、ぴったりとその肌色にくっついた

何度か瞬きをすると、耳に吐息がかかり体が震える

そして、はっきりと目が覚めた

「なっ……!!?」

「おっと」

目の前にあった肌色は誰かの胸板で、今はその人に抱き締められている

そのことを瞬時に理解してしまい、力一杯目の前にある体を突き飛ばそうとしてしまった

しかしそんな力ではびくともせず、まだしっかり抱き締められている

「ったく…マジでなってねー」

「な…な……」

口をぱくぱくさせながら恐る恐る顔を上げると、獅子がいた

「!!」

「助けてやったんだからせめて大人しくしてろ」

「た、たすけ…?」

顔を真っ赤にし、理解できないと視線を揺らす

すると顎に手を添えられ、ピクリと体が反応した

「さっきみたいにネコになって甘えたっていいんだぜ…?」

「ネコって……んっ」

ネコにするように顎裏を撫でられ、頭がぽやぽやする

「や……にぁ…!」

「お」

頭とお尻に違和感が走り、また瞬きを繰り返した

「まさかアンタ、気付いてないとか…?」

「ひゃっ…!?」

ふいに頭を撫でられ、耳に手があたるとまた違和感

目の前の人は数秒考えてから体を離してくれて、起き上がった

「ほら、こっちこい」

「………」

ベッドから降り、手招きされて辿り着いたのは大きな鏡の前

「へ…」

そこには、自分が映っている

しかし、いつもと違うところがあった

「なに、これ…」

ふさふさの耳に、尻尾

髪の毛と同じ色をした黒いネコのような耳と尻尾が生えていたのだ

呆然と立ち尽くす姿を見て、隣にいた金髪の男が頭を撫でる

「つーことは…つい最近NEXT能力に目覚めたってわけか…」

ふむ、と顎に手を置く彼をじっと見上げる

やっぱり

見た事はあるが、会ったことはない

会えるはずがない、違う世界の人

じっと見られていることに気付いたのか、その人もこちらを見た

「昨日のこと、覚えてるか?」

その質問に、少し考えてからふるふると首を横に振ると小さく溜息をつきながら腕を掴まれる

そして再びベッドに戻ると、その端に並んで座った

「俺が仕事から帰ろうと歩いてたら、アンタが道の隅っこで倒れてたんだよ…ネコの姿でな」

「!」

「そこを俺様が拾って助けたら実は人間だった、と……で、どっから来たの」

「あ……」

きっとこの世界に自分の居場所はないだろう

自分がNEXTになった時点で自分のいたところではないということは明確なのだ

そう思い俯いていると、がしがしと頭を撫でられた

「じゃあ質問変えるわ…行く宛はあんのか?」

「っ……ない、です…」

「あ、そ」

ぎし、と音を立てて立ち上がるその人に咄嗟に手を伸ばしてしまうが、行き場をなくして宙を彷徨う

男が出て行ってしまったドアを見つめ、じんわりと涙が出そうになった

それをぐっとこらえるように唇を噛むと、男が戻ってくる音が聞こえ勢いよく顔をあげる

「あ?何泣きそうな顔してんだ」





ちりん






「へ…」

「安心しな、ちゃんと人間用のチョーカーだ」

男が手にして戻ってきたのは、黒地に金のラインが入った鈴付きのチョーカー

「昔衝動買いしちまって使い道に困ってたんだが…アンタならぴったりだろ」

何からツッコめばいいのかわからず呆然としているうちに、チョーカーが首につけられた

ちりん、と綺麗な音を鳴らし、その存在を控えめに主張する

目をぱちくりさせながらチョーカーに触れ、男を見上げた

「俺はライアン・ゴールドスミス、今日からお前のご主人様だ」

「!!?」

「んで、お前の名前は?それとも名前まで俺がやろうか?」

慌てて首を振り、ごくりと唾を飲み込んだ

「紅……天宮、紅」

「コウ、な…よし、ならこれでお前はもう俺様のモンだ」

「にぁっ!?」

ふわりと抱き上げられ、驚いて暴れそうになるのをなんとか抑える

顔が同じくらいの高さになるよう抱き上げられ、視界いっぱいに広がるライアンの笑顔に数秒戸惑い、小さく笑みをこぼした

「ありがとう。よろしくお願いします、ライアンさん」

「おう、イイ子だ」

そのままぎゅっと抱き締められ、今度は自分から首に腕を回して抱き締め返した




















『(尻尾すげぇ揺れてら…)』

『(ライオンに育てられるネコの気分…)』





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