短編

□06.5
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背筋が凍えた

画面に表示された名前は今の今まで頭の中を占めていた人物で、少しほっとしながら着信に出る

しかし、返事がない

浅い息遣いと、遠くで聞き覚えのない男の声が聞こえた

それに続くように、聞き慣れた声が唸る

あぁ、これは

一瞬で昇ってきた血が冷めていくのを感じ、ケータイがみしりと音をたてた

《化け物が!人間の真似して痛がってんじゃねぇよ!!》

はっきり聞こえた声に、何かの事件に巻き込まれているという確信を得られた

ふつふつと静かに湧き上がってくる怒りをおさえ、何かを発しようとする相手に耳を澄ませる

《たす、けてっ…》

あぁ、やっと聞けた

「……わかった」

後ろでお節介な方が何か言っているようだったが、そんなのを気にしている暇はない

あいつが、助けを求めてるんだ

ケータイであいつの居場所を確認し、全速力でトレーニングセンターを降りていると腕のPDAが耳障りな音を立てる

《ボンジュール、ヒーロー》

「あぁくそっ…忙しい時に…!」

《ライアン?貴方今どこに…》

「俺はサウスブロンズの公園の事件に向かってる!その他の事件なら今日は他の奴らに譲るぜ!」

《え?そこって…》

強制的に通信を切り、ビルの前に止まっていたトランスポーターに乗り込んで一足先にバイクをとばす

あの二人を待っている余裕はないのだ

「待っててくれよ…!」

祈るように歯を食いしばり、スピードを速めるのだった




















最初に見えたのは、ふらふらしながら立ち上がるコウの姿だった

朝つけていったはずのサングラスはなくなっているし、コートも血で汚れている

すぐにバイクを降りて駆けつけると、コウがぎろりと男を睨みつけたのだ

見たこともないような、強く、悲しげな瞳で

「何も、知らないくせに…」

ぽつりと聞こえてきた声は震えていた

しかしそれは恐怖からではなく、怒り

か弱いただの子猫だと思っていたが、それは間違いだったか

そう思い、今にも男を取り押さえたい衝動をおさえその姿をしっかりと見つめる

「あの人はアンタなんかとは全然違う……何も知らないくせに悪く言うなっ!!」

あんなに傷だらけだってのに

「あぁ…そいつも人間じゃねぇってことかぁ……お似合いだぜぇ??」

すぐにでも出て助けてやりたいってのに

「ふざけんな…!!あの人は…優しくて、強くて…アンタみたいに人を人として見られない最低な奴とは比べものにならない人だ!!!」

あぁ、くそ

「好きに喋らせておけばぺらぺらと…!もう遺言はいいよなぁ!?」

アンタには敵わねぇよ

びゅっ!といくつもの針がコウに飛んでいくが、何故か大丈夫だと思った

一瞬だけ目が合い、大きな目をこれでもかと見開いてからふわりと跳んだ

軽い体が胸に飛び込んできて、ほっとした

ヒーロースーツが邪魔だが、今は仕方ない

「ごめんなさい…あとは、よろしくしていいかな…?」

「あぁ」

ぽんぽん、と頭を撫でてやり、ゆっくり座らせてやる

どうやらもうあまり力は入らないらしい

「すぐ、終わらせるからよ」

そう囁いてやると、安心したように目が閉じられた

「さぁてクソ野郎…よくも俺様の子猫ちゃんを虐めてくれたなぁ…?」

「あ…?あぁ、あぁ…なるほど、お前だったのか…」

にやりと笑う男が何か言葉を続けているが、聞こえない

一歩踏み出し、スタートダッシュするかのように地面に手をついて男を睨み付けた

「もう、黙れ」

次の瞬間、男は地面に伏して気を失った










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