短編

□06.5
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「ライアン」

「あ?」

それはいつものトレーニング中

最近やっときちんとトレーニングルームに顔を出すようになった後輩がどこかそわそわしていることに気付いた

「どうしたー?」

へらりと笑ってこちらを見るライアンはいつも通りだが、ここは聞くべきか、聞かないべきか

いや、素直に聞けば付き合いの長いパートナーと同じように空回りしてしまう可能性が高い

「休憩ですか?」

「まぁな、もう疲れたぜー」

「最近はきちんとトレーニングしているんですね、いいことです」

「なんだよ、ジュニア君に褒められるとくすぐってー」

「おーっす!」

あぁ、来てしまった

一番のお節介が

「お?どうしたどうしたー?なんか元気ねーぞライアン」

「あぁ?ったく…今日はなんなんだよアンタら」

ライアンは面倒臭そうに溜息をつき、頭を抱える

「どうした、悩みなら聞くぜ?」

「別に悩んでなんかいねーっての」

「んだよ、たまには頼ってくれちゃっていいんだぞー」

「だーかーらー俺様は別に…」

不自然なところでライアンの言葉が止まり、何か考えているようだ

そして数秒の間を置き、真剣な顔でこちらを見る

「…なぁ、ネコを危ねぇ目にあわせないためにはどうすりゃいいと思う?」

「は?」

ネコ?

そういえば以前子猫がどうとか言っていた気がする

まさか飼い猫のことで悩んでいたのか?

「ネコ、か…」

虎徹さんは虎徹さんでなぜか真剣に悩んでいる

なんなんだこの猛獣コンビは

はぁ、と溜息をつくと、むっとしたライアンがこちらを睨む

「おいおいジュニア君さー、今くだらないことで悩んでんだなって思っただろ」

「……いえ」

「その間はなんだその間は」

「ネコ…を家から出さなければいいんじゃね?」

今の会話を聞いていなかったのか、虎徹が人差し指をたてて神妙な顔で提案する

「いや…外に行きたいんだと……それを閉じ込めたらさすがにかわいそうだろ?」

「確かに…それはあるかもしれませんね」

なんで僕まで真面目にこんなこと話しているんだ

ああもう大人しくトレーニングをしておけばよかった

「けど俺がつきっきりってわけにもいかねーじゃん?どうするかなー」

「誰かに預けておけばいいんじゃないですか?」

「あ?いや、それは……困るんだよ」

「?」

もごもごと口ごもるライアンに首を傾げると、どこからか着信音が聞こえてきた

どうやら発信源はライアンだったらしく、かったるそうにケータイを取り出すと、相手を確認したとたん勢いよく立ち上がる

「どうした?」

その声はどこか優しくて、どこか嬉しそうだ

それを見た虎徹さんはにやにやしながらこちらに寄ってくる

「なぁバニー、あれってもしかして…」

「そういうプライベートまで踏み込むのはどうかと思いますよ」

「けど気になるだろ!」

「…おい?」

こちらが盛り上がるのを一瞥しながら、ライアンの眉間に皺が寄る

「どうしたって…………あ?」

慌てたようなライアンの声に顔を見合わせ、顔色をうかがう

いつもと様子が違うライアンに、他のヒーローもちらりとこちらを見ている

「……わかった」

静かに返事をしたライアンは、今までにないくらい怒りの色が浮かんでいる

「ら、ライアン…?」

どうやらこのパートナーは本当に空気が読めないらしい

虎徹さんに呼ばれて振り向くこともなく、ライアンはトレーニングルームを飛び出していった

「なんだ…?」

全くの同意見だが、あれは恐らく只事ではない

「ちょっと、あのコどうしたのよ」

「俺にもさっぱり…」

周りのヒーローが集まってきたところで、聞き慣れたブザー音が部屋に響き渡った

《ボンジュール、ヒーロー》

タイミングよく聞こえたアニエスの声に、顔を顰める

まさかライアンは…

《メダイユ地区サウスブロンズの公園で男が無差別攻撃をしてるそうよ、何故かライアンはもう向かってるそうだから…ポイントとられたくなかったら他のヒーローも急行して!》

「なるほど…どうやらさっきの電話は無関係ではなさそうですね」

「あぁ、急ぐか!」

いつもなら一人で突っ走ることのない有能なライアンだが…

どうやら今回はそうもいかないらしい










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