medusa

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きゅっきゅとグラスを磨き上げ、自分の顔を映して満足そうに棚に戻す

今日も今日とて平和である

お客さんはいつも通り、夕方になった今では人もまばらだ

たまにカウンターのお客さんと会話を楽しみ、帰っていくお客さんを見送る

いつもと変わらないお店

しかし、最近少しだけ変わったことがある





カランカラン






「いらっしゃいませ」

「おっす!今日も繁盛してるか〜?」

夜の時間帯に来る常連さんが増えたのだ

鏑木虎徹さんというらしいおじさまは、週に2回以上のペースで訪れる

それは決まって会社帰りらしい

「あー今日も疲れたー…」

「お疲れ様です。これはサービスで」

「おっ!悪いな」

「本音を言えば試作品なんですけどね」

「おい!…まぁうまいから許す」

枝豆やちくわなどをチーズに絡ませた、カリカリなおつまみ

いい音をさせて食べる虎徹に、今日は何にするかを聞いてみる

「ん〜…ワイン、赤で」

「かしこまりました」

美しいくびれのあるグラスにワインを注ぎ、すっと差し出す

さりげなく香りを楽しみ、喉に流し込んでいく

「く〜〜!やっぱ仕事の後の酒はうまいわ!」

「鏑木さん、ビールじゃないんですから…」

「いいじゃねぇか!」

な!と笑顔を見せる虎徹をついつい許してしまう

「それで聞いてくれよ〜今日も相方がな〜」

「あのツンデレな相方さんですか…本当は仲がいいんでしょうに…」

「いやっ!違うんだよ!かといって仲が悪いってわけじゃなくてな?いやむしろ前よりは全然丸くなっておじさん呼びが名前呼びに変わった成長も…」

ぐぬぬ…と考え込む虎徹に微笑み、自分もコーヒーを一服する

「いいじゃないですか、今では信頼できる相方なんでしょう?」

「そうだけどよ…あいつ、“後先考えずに突っ走りすぎです”とか“もうちょっと僕の苦労も考えて行動してください”とか生意気言うんだぜー?」

「ふふ…仕事中の鏑木さんが目に浮かぶようです…大変そうですね、相方さん」

「だっ!!お前まであいつの肩もつのかよ〜」

「いえいえ、私は正直な感想を言ったまでですよ?」

「酷ぇな〜」





カラン






「お、来たな!」

小さなベルの音に反応して、虎徹は入口の方に体を向ける

そこには案の定常連の先輩とも言える黒猫の姿が

「よぉ!今日も来たのか英雄君!」

「いらっしゃいませ。それと鏑木さん、英雄さんは女の子です」

「えぇ!?そうなの!!?」

英雄、と呼ばれる黒猫にミルクを出し、猫用のシーフードも別皿で出してみた

「おー食ってる食ってる」

「よかった、英雄さん用に開発したメニューなんですよ、あれ」

「うまそーなシーフードだよなー…俺も食える?」

「鏑木さんには少し味が薄めかと…なので貴方はこっちです」

さっとフライパンを取り出し、にっこり笑顔

「この前教えてくださったチャーハン、とっても美味しかったのでメニューに加えてもいいでしょうか?もちろん第一号は鏑木さんですけど」

「まじか!これからもサービスしてくれるってんなら許す!」

「喜んで」

虎徹に教えてもらったチャーハンを少しアレンジしながらも、パラパラとお皿に盛りつける

「はい、どうぞ」

「うまそーじゃねーか!」

嬉しそうにチャーハンを食べる虎徹はうんうん頷いてサムズアップ

「いけるぜ!俺のとはなんかちょっと違うけど、アレンジしたのか?」

「はい、企業秘密ですけどね」

「うわっ、ずりー!」

一気にチャーハンを食べてしまった虎徹に感想を求めると、うまかった!だそうだ

全然参考にならないが、チャーハンに関してなら信頼して大丈夫だろう

「…今なんか失礼なこと考えなかった?」

「なんのことでしょう?」

そんなこんなで、今日も夜が更けていく










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