Treasure

□女王と執事の憩い(小説)
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此処は日本
ヴィクトリア女王とその執事、
アッシュ・ランダースは旅行に来ていた

部屋には大きな旅行鞄が置いてあり、ヴィクトリアは部屋に一人居た

白髪に着物姿は正直しっくりこない

その部屋に足音が近付いて来た

ガチャと扉を開けヴィクトリアの部屋に入って来たのは―

「アッシュ!」

ヴィクトリアは顔を上げアッシュの方を見た

まとめた衣服を持って部屋に入って来たのはヴィクトリアの執事、アッシュだった
どうやら風呂上がりの様子でアッシュはヴィクトリアに頭を下げた

「申し訳ありません、ヴィクトリア女王陛下 お待たせしてしまいまして」

「もう、そんな堅い口調止めてよ私がアッシュと旅行がしたくて来たんだから
それにお風呂も私が行ってって言ったんだから」

「すみません、もう少し早く上がるつもりだったのですが、不浄がなかなか取り除けれず…」

「アッシュ綺麗好きだったわね」

そう言うヴィクトリアの人差し指が畳を指していたのでアッシュは疑問を口にする

「ヴィクトリア様、何をなさっているんですか?」

「アッシュがなかなか来ないから畳の目を数えていたのよ」

「寝る前にそんなもの数えないで下さい」

アッシュは溜め息を吐く

「だってアッシュが遅いんだもの…」

「それについては申し訳ありません
しかしだからと言って畳の目なんて数えないで下さい」

「じゃあアッシュ、私とお話しましょ?」

「分かりました、ではテーブルにお茶菓子があるので私淹れますね」

「ありがとう」

ヴィクトリアはにこっと笑う

アッシュがテーブルに用意されたお茶を急須に入れ湯を注いでいるとヴィクトリアは向かい側ではなくアッシュの横に座った

「何故此方に?」

「アッシュの隣にいたいから♪」

ふふっ と笑ってアッシュに寄り添うヴィクトリア
アッシュは困ったように口を開く

「お止め下さい、女王陛下ともあろうお方が執事如きに――」

「じゃあその女王陛下からの命令、アッシュ羽目を外しなさい?」

ヴィクトリアはアッシュの言葉を遮って言う
アッシュは少々目を丸くして驚いたが直ぐに口元に笑みを浮かべて
手を左胸に当てお辞儀をしながら肯定の返事をする

「分かりました、ヴィクトリア様」

「良い子ね!」

ヴィクトリアも天使のように微笑む

「ではヴィクトリア様」

アッシュは手袋をはめた手でヴィクトリアに茶菓子の饅頭を差し出した

「え?」

「日本のお茶の楽しみ方はまず茶菓子を食べきってからお茶を楽しむのです」

「そうなの… じゃあはいアッシュ、あーん」

ヴィクトリアは茶菓子をアッシュの口元へと運ぶ

「しかし…」

「アッシュ? さっき私が言ったことを忘れたの?」

「フフッ 分かりました」

アッシュは大人しくヴィクトリアに従う

一口それをかじった


瞬間...


アッシュの動きがピタリと止まった

「…? アッシュ?」

ヴィクトリアがアッシュの顔を覗き込むとアッシュは無駄に低い声で言う

「不浄で…下賤、不毛で…消せ」

「ア、アッシュ?」

アッシュはカッと目を見開いて怒りを現す

「何故黒餡なのですか!!」

「……え?」

「何故白餡ではないのですか!! 饅頭の中身と言えば白餡でしょう!! しかもこの黒餡、小豆並餡ですね、ヴィクトリア様になんというものを!! 普通は白餡の千鳥餡をふんだんに使用した朝生菓子をご用意するのが使用人の嗜み!! それから此方のお茶も良く見たらかりがねですね!? 日本人なら玉露でおもてなしをするのが基本でしょう!? 全く、日本人は下賤ですね!!」

※かりがね好きの方すみません。あくまで個人の意見です。

「ア、アッシュ? もう良いから…」

ヴィクトリアはアッシュを宥めようとしたがアッシュは立ち上がり出口へ向かう

「此処の支配人を締め上… 浄化してきます」

「ちょっと! そんなこだわらなくていいからっ!」

今にも殴り込みに行きそうなアッシュを止める(というより実際に殴り込みに行こうとしている)

しかしアッシュは止まらない

「いいえ、これだけは譲れません、饅頭の中身は白餡!! 黒餡など…汚物汚物汚物汚物汚物汚物!!」

※あくまで個人の意見です。

「だから駄目よ!」

「知ってますか、ヴィクトリア様
私、アッシュ(灰)の字は『全テ灰二ナレ』のアッシュ(灰)です」

「初めて聞いたわよ! というか怖いわよ!」

ヴィクトリアは引き気味に言う
片手でアッシュの着物を掴んでいる
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