Treasure

□素直になれなくて(小説)
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長い廊下で掃除をしている影が一つ



「はぁ…」



その人物は溜め息をつき、手を止めた



と、そこへ足音が近づいてくる



「アリス」



「…………」



「アリス」



「…………」



「アリス!」



「ひゃあ!?」



三回目でようやくアリスは自分を呼ぶ声に気づき、驚く



「何をボーとしている」



「ジ、ジョン!? 脅かさないでよ!」



「脅かしてなんてない、アリスがボケーッとしてるから悪いんだろう」



「言い方酷くなってる! ボケーッともしてないわ!」



「そうか、じゃあアリスばーちゃん? 認知症には気を付けろよ?」



「もう! 何なのよ、さっきか――」



「旅行に行くぞ」



「はへ?」



「……アホな顔してないで、準備しておけよ」



言うだけ言うと、ジョンはそのまま廊下を歩いて行った



「……ってちょっと! アホな顔って何よ! アホな顔って!!」



ジョンは角を曲がってもう見えない



「…………」



ワンテンポどころか数秒遅れて叫んだ



「って、旅行!!?」








翌日



昨日、帰り際にジョンが明日の朝に迎えに来るから家で待っているように言われたアリス



早めに起きて髪などを気合い入れてオシャレをし、玄関先に出ていた



「遅いな…」



腕時計を見る



時間は聞いていないが、そろそろかと思い、外に出たのだ



すると声が聞こえる



「アリス」



「あ! もう、遅いよ」



ジョンの姿が見えた



ジョンはアリスの方へ歩いてくる



「悪いな、サングラスを選ぶのに時間がかかってな」



「サングラスなんて全部同じでしょ!?」



「何を言っている、その日の気分で同じサングラスでも掛けたい、掛けたくないがあるんだ」



「やっぱり同じサングラスなんじゃない!」



「いや、微妙に違うんだ今日のこれは反射具合が―」



「あぁ、もう分かったわ それで? 時間良いの?」



「あ」



ジョンは時計を見る



「行くぞ」



「…って! いきなり走るのー!?」



アリスはジョンに付いて走る



とは言っても玄関先で車を止めてあるのでそこ
までだが





バタンと車のドアを閉めると車は動き出した



後部座席に座ったジョンとアリス



アリスはそろそろ、といった感じで訊ねる



「ねぇ、ジョン どこに行くの?」



「アフリカだ」



「あ、アフリカ!?」



「あ、間違えた ハワイだ」



ドタァッ と座席から落ちそうになる



「全っ然! 違うじゃない!!」



「『フ』と『ワ』が似てるから良いだろ」



「…それ、カリーとシチューは同じって言って
るようなものよ?」



「この季節はシチューだな」



「誰も聞いてないわよ…」



自分が求めている答えを言わないジョンにアリスは疲れたように肩を落とす



「どうした、アリス」



「はぁ… どうしていきなり旅行なの?」



「お前が疲れた顔をしてるからだ」



ジョンはストレートにそう言った
アリスは目を丸くする



「…聞こえなかったのか? アホな顔して」



「だ、誰がアホな顔よ! ……私の為に?」



「そうだな、これ以上アリスばぁの認知症が悪化しないように―」



「誰がアリスばぁよ! 女の子に向かって無神経過ぎるわ!」



「お前、女の子だったのか?」



「〜〜〜っんと! 失礼しちゃう!!」



プイと窓側に顔を向けるアリス



「…………」








空港へ着くと二人はビジネスラウンジに入った



「人少ないわね…」



「まぁ、だから今日にしたんだがな」



「え? そうなの?」



「嘘だ」

「…………」



突っ込みを入れるのも疲れ、アリスは黙る
そんなアリスに見てジョンは…



「アリス、そこに座っていろ 何か飲み物買ってくる」



「え、ありがとう…」



コロコロと態度が変わるジョンに戸惑いながらアリスは言われた通り、ソファーに座り、ジョンの帰りを待つ




ジョンはバーカウンターに向かいながら、一昨日女王に言われたことを思いだした




『ねぇ、ジョン? 最近アリスの疲れが顔に出ていないかしら?』



『アリスの…ですか?』



『えぇ、あの子ちょっと無理してると思うのよ』



『そうですか? アリスは割と丈夫なのでそんなことは――』



『そうだわ』



ヴィクトリア女王は両手を合わせて声を上げる



『どうされました?』



『ジョン、あなた確かアリスと幼なじみだったわよね? 明日から三日間、二人共お休みにしてあげるから二人で遊びに行ってらっしゃい』



『…陛下がそのようなお気遣いを使用人に――』



『あ"ぁ"! 私も一緒に行きたかったわ、アルバートォォォ……!!』



ヴィクトリア女王は泣き崩れる
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