novels.(grey×lizzy)

□lunatic gate〜はじまり〜
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「lunatic gate〜はじまり〜」


「あーお腹すいた・・・ねえフィップス、もう買い物終わったんだろ?さっさと帰ろうよ」

「まだ終わってないぞ!」

「なんだ、そうなの?」

ボクはチッと軽く舌打ちをする。あー・・・またコイツの堅ッ苦しい説教が始まるよ。

「だいたいお前は荷物全然持ってないだろうがっ!全部俺に持たせておいてそれで腹が減っただの、疲れただのと・・・」

「持ってるじゃん」

片手に持っている小さい紙袋をホラホラッとフィップスに見せつけた。

「それ1つだけだろうが!俺はこんなにもってるんだぞ!お前も男なら少しは・・・」

ガミガミガミガミ・・・

あー・・・やっぱりねぇ、予想通り。

「フィップス、立ち止まんないでよ、歩きながらお前の説教聞くからさ・・・」

ボクはからかい半分でそう言うが、それがいけなかった。

「・・・・っ」

フィップスはズカズカとボクの方に近づいてきて―

「持て・・・」

ドスン!ドシッ!

「うっわ!」

もう2袋押し付けてきた、しかもけっこう重いやつ・・・。

「平等に持つべきだ」

「なんだこれ、重い・・・おいっ!お前の方がでかいんだから、多く持って当然だろッ!!」

「・・・・・」

スタスタスタスタ・・・

「・・・・っ」

無視か、コイツ・・・後で覚えてろ。

グーグーとお腹の虫がうるさく鳴り出す。あー・・・早く帰って―。

「おい、グレイッ!今度はあそこの店だ、早くしろ!」

「分かってるよ」

あー・・・お腹空きすぎて力が入んない・・・それにしても、フィップスのヤツめ―。

「あ〜・・・」

力が入んないから、重いもの持つのも余計辛いってのにー!

イライラしながら足を早めたその時―。

「お嬢様!前、前っ!!」

「―え?」

ドッシィン!!

「〜っ!」

胸の辺りに何かが飛び込んできた。

鈍い痛みとともに、ボクの持っていた荷物が地面に全部落ちてしまった。

「あ・・・っいった・・・ご、ごめんなさい!」

ぶつかった相手は地面に尻もちをついたらしく、そのままボクに謝ってきたけど・・・

「あーあ・・・」

ぶつかったせいで、大荷物の中身全てを地面に落としてしまったボクにとってその謝罪は更にイライラを助長させるだけだった。

「・・・君さぁ、気をつけてよ本当に」

ハァーッと深い溜息を吐いた後、ブツブツ言いながら落ちた荷物を乱暴に袋に入れていく。

「て、手伝います!私・・・」

「いいわ!ポーラ・・・私がやる」

「ですが・・・」

「いいの、だって私がぶつかったんだから―」

「いいよ、下手に触られて壊されたりしたらたまんないからねッ!」

ボクはイラつきながらも、ぶつかってきたヤツの顔をチロッと見た。

「・・・・」

巻き毛のブロンドヘアー、ピンクのフリフリドレス、見覚えのある顔・・・
どこかで―

「―」

しばらくその子をじっと見つめていた。

「エリザベスお嬢様・・・」

「大丈夫だってば」

エリザベス・・・そうか―。

「君・・・エリザベス・ミッドフォード」

ボクがそう尋ねると、びっくりしたように彼女は顔を上げた。

「どうして、私の名前・・・」

「昔よく陛下の主催するフェンシング大会で戦っただろ?最もボクは天才の君に勝ったことなかったけど・・・ボクのこと覚えてない?」

「グレイ・・・伯爵?」

「そう、覚えててくれたんだ。まぁ、この前もたしか会ったんだよね・・・たしかイースター祭の時―」

「はい、シエ・・・ファントムハイヴ家で」

「そう、君の婚約者のシエル・ファントムハイヴ伯爵の家で会ったよね」

ボクはクスッと小さく笑ってエリザベスを見た。

「・・・・」

顔を真っ赤にしながら俯いて、必死に散らばった者を袋の中に入れている。

なんでそんなに赤くなるの?婚約者の名前言ったからかな?それともボクがあんまり見つめるからかな?

「ほら、そっちのも拾ってよ」

「あ、はい・・・っ!いったぁ」

「お嬢様、どうされました・・・あぁ!血が!ガラスで切ってしまったんですね、今手当てを―」

あーあ、まったく・・・、剣は天才といってもこういうとこはトロくさいなあ。

「君、この子のメイド?」

「はい、本当にすみませ―」

「拾って袋の中戻しておいてくれない?くれぐれも丁寧にやってね」

「え、は・・・はい」

エリザベスのメイドという、栗色の髪の女性に命令口調でそう言った。まぁ、こういうことはメイドに頼んだ方がいいからね。

「―指、見せてごらん」

うずくまったまま、指を痛そうに抑えているエリザベスに近寄ってスッとしゃがみ込んだ。

「・・・・」

彼女はだまっておずおずと指をボクの方に見せてくる。

「見えないよ、もっと近づけて」

グイッと細い手首を摑み、その小さな手を引き寄せる。

「あの・・・」

「あーあ、こんなに深く切っちゃって」
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