novels.(John×Alice)

□「LOVE BRACE」
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 仕事も忘れて私はしばらくそこにじっと立ち尽くしていたようだ―。

「・・・ン、ジョンッ!」

「・・・っ!」

また背後から聞こえる大きくて太い声のおかげで私はやっと我に返った。

「―」

ゆっくりと振り返ると、執事武官のチャールズ・フィップスが不機嫌そうに立ちはだかっていた。

「―すまない・・・」

「何をぼんやりしている?陛下がお呼びだぞ」

「分かっている・・・」

私は小さくそう呟くと、彼の顔をろくに見もせずその場を立ち去った。

私としたことが・・・つい思い出に耽ってしまった。

「陛下の信頼を裏切るようなことをしてはならない・・・」

そう堅く心に誓い、私は早足で廊下を歩いた。


コンコン・・・

「―陛下・・・ジョンです」

「ジョン?お入りなさい・・・」

「失礼致します・・・」

ガチャ、ギィ・・・ッ

扉がやけに重く感じられる。

「遅くなり申し訳ありません・・・」

私は深く頭を下げた。

ヴィクトリア女王陛下は、そんな私を見てフフッと柔らかく微笑んだ。

「いいのよ、顔を上げなさいジョン」

とても優しい口調でそう言われたので、私は少し驚いてしまった。

「―」

顔をゆっくりと上げて、陛下の瞳を見る。

「いいのですよ、たまには―。いつも続くようでは困りますけれどね」

クスクスと笑いつつも、母のように優しい瞳で私をじっと見つめてくれる。

「は・・・」

「あなたはいつも私のためによく立ち働いてくれるし、危険を顧みず守ってくれる・・・。たまにはお休みをあげようかしらと思って呼んだのよ」

「―そんな、陛下・・・」

休みは嬉しいけれど・・・それでも私は陛下のために立ち働いていた方が―。

「・・・・」

喉まで出かかった言葉をグッと止めた。

「ジョン?どうしたの・・・」

彼女は私の顔を心配そうに窺う。

そうだ、せっかく陛下がこう言われているのだからお言葉に甘えるのも礼儀ではないか・・・。そして休みが明けたらまたその分働く・・・王室のため、陛下のために―。

「お言葉に甘えさせていただきます、陛下・・・」

私は再び深々と頭を下げる。

「そう・・・」

「・・・どうされました?」

ホッと胸を撫で下ろした彼女をフッと見た。

「いいえ、なんでもないのよ。ただ余計な事をしてしまったかしらと少し心配しただけです」

「そ、そんな・・・余計な事などと!」

「そう?ならいいわ。よい休暇をね、ジョン」

「はい、ありがとうございます」


―パタンッ・・・

陛下の笑顔に見送られながら、部屋の扉を静かに閉めると―そこにはさっき不機嫌顔で私を呼びに来たチャールズ・フィップスが立っていた。

「―さっきはすまなかった」

軽く頭を下げてそう言う私に、フィップスは小さくコクリと頷いた。

「―まあ、よく身体を休ませることだな・・・」

「心配してくれていたのか?」

私はフッと小さく笑いながら、彼を見た。

「・・・陛下のことは、俺とグレイに任せてとにかくよく休め。それだけ言いに来た」

「―ああ」

立ち去っていくフィップス・・・何かを私は忘れて―あっ!

「フィップス!」

私は彼を早足で追いかける。

「何だ?」

「私がいない間・・・陛下がもしアルバート公のことを思い出してお泣きになるようなことがあったらこれを―」

ポケットをゴソゴソと探り、出したのは私が作った陛下の夫君、アルバート公の人形だった。

「―分かった・・・」

「頼むよ・・・くれぐれも―」

こうして―フィップスともう一人の執事武官、チャールズ・グレイに陛下のことをお任せして私は長期の休みをいただいた・・・。
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