その他

□絶滅危惧種のマリア
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 今日もまた、奴らは私を見てる。
 そんなにジロジロ見ないでよね。私はレディなの。繊細なのよ?本当デリカシーのない奴ら。もし奴らと私の間に強化ガラスという壁さえ無かったら、突き破って引っ掻いてやるのに。
 …え、そんなことしたら後が大変なんじゃないかって?そんなこと…馬鹿みたい。私は特別なの。私の存在には、価値がある。だって私は――――…


 絶滅危惧種、だもの。


 それもメスでは最後の一匹。オスたちは何匹かいるみたいだけど、メスは私だけ。私がいなくなったら、その時点で純血種の繁殖は出来なくなるわ。
 まぁ、そんなこと今さらどうだっていいけどね。こんな箱の中の生活なんて、飽々するわ。『絶滅危惧種の保護』なんて聞こえは良いけど、結局は奴らの都合でしょ?
 …――――それにしてもと、マリアは最近連れて来られたオスを見た。う〜ん、無理!無理よ、無理。無理に決まってるじゃない。あんなブサイクとエッチなんて絶対イヤ!早くどっかにやってよね。


 動物保護官たちは頭を捻らせていた。
 その原因は、もちろんマリアだ。彼女はその種の世界で最後のメスであり、数匹残っているオスたちと後尾させようと試みているのだが、なかなかうまくいかなかった。今回のオスが交尾に成功しなければ、マリアと同じ種のオスは全員フラれてしまったことになる。否、好みのうるさい彼女と、唯一交尾まで漕ぎついたオスもいた。しかし彼の精液には、悲しいかな種(タネ)がないことが後で判明した。
「…うむ、今回も駄目みたいだな。マリアは交尾自体が嫌いというわけではないようだが…あの種の無いオスの時は、こっちが引き離すまで延々と交わっていたくらいだからな」
 「はい、まったく…年中発情期の種のわりに、マリアはえり好みが激し過ぎますね」
 若い保護官Bは年輩の保護官Aの言葉に最もらしくうなづいた。

―――ぅ〜ん…―――


 ガラス越しにマリアの様子を観察する二人の前を、どこからともなく蝿が通り過ぎ、辺りを飛んでいた。
「せめてオスが一匹でメスが数匹だったら良かったんですが…」
 若い保護官Bは神妙な顔をするふりをしつつ、ふよふよと飛ぶ蝿を目で追っていた。
「そうだな。オスの方が性欲が強いからな」
「……はい…オスはメスですからね…」
「ん?何を言ってるんだ、君は?」
「あ、や…」
 蝿に気をとられ、保護官Bは保護官Aの話を聞いていなかった。
「君は僕の話を聞いていなかったのかね」
「いえ、決してそういうわけでは…」
 と言いつつも、若い保護官は蝿が気になって仕方がなかった。そして再びその蝿が彼の前を通り過ぎようとしたとき――――…

――――パクッ――――


 ついに我慢ができず、若い保護官Bの舌が延び蝿を捕えた。
「おいっ、君!」
「…はむ……す、すみません!…むにゃむにゃ…」
 そんな若い保護官Bを、年輩の保護官Aは呆れた様子で眺めた。
「はぁ…次から気を付けるんだな」
 まぁ、仕方が無いだろう。保護官Aは今回だけは多目に見てやることにした。実は彼自信も蝿が気になっていなかったとは言えない。なんといっても彼らにとっては中々の馳走である。カエルとカメレオンにとっては――――…。
「では話を戻すが、あのオスが失敗ならば、純血種は断念せざるを得ないだろう。残念ながら日本人の純血種は諦めるとしよう」


 耳元で何事か囁きながら、男がマリアに口付けた。イタリア語なんてさっぱり分からない彼女であったが、そんなことはどうでも良かった。
「……あ、…イイ…最高…」
 だって今回のオスは、イタリアのイイ男。口下手ダサダサな日本の男と違ってイケメンで口説き上手だ。言葉は通じずとも、心で愛を交せることが出来る。
 こういう男を待ってたのよ、とアリスはガラス越しの目を気にもせず…というより、逆に見せつけることによってさらに感じながら、股を大きく開いて喘いだ。


「…ん…あ…あっ、あっ――――…」


 イタリア人の精子がアリスの膣内にたっぷりと注がれるのを、動物保護官たちは複雑な面持ちで観察した。
「今回は妊娠までいきそうですね。どうやらマリアはあのオスが気に入ったようです」
「あぁ、面白いものだな。同じヒト科ではあっても種は違うというのに。人間というものはおかしな動物だ…」


 かつて地球は恐竜…爬虫類が栄華を極めていた。一度は滅び、哺乳類にその座を奪われたが――――…歴史は、繰り返されるものだ。

受精成立?

 

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