Sweet dream

□いつもは遠くにいるけれど
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「そういや、今日は『恋人の日』らしいな。」
おっさんが唐突に呟く。急に何を言い出すかと思ったらそれ程重要性の無い事だった。
何気無くカレンダーを見ると 6月12日 の所にはそんな事は書かれていない。
「そうらしいな。何で今日が恋人の日なんだ?」
若がソファに全体重を預けて、背もたれに首を乗せて少しだけこちらを向いきなが尋ねた。
「ブラジルで、縁結びの聖人とされるアントニオの命日の前日だ。ブラジルでは恋人同士で写真立てに写真を入れ、交換し合うという風習があるらしい。」
答えたのはおっさん、ではなく一人用のソファに座って本を読んでいるバージルだった。
本の世界に没頭しているかと思ったが、割りと聞いていたらしい。そういえばこの本、前に読んでた気もする。

「へぇ…。バージルがそんな事を知ってるとは意外っちゃあ意外だな。」
初代が首を少し傾げて顎に手を添えながら言うとバージルは少しムッとした表情になる。
「他国の本を読んでみろ。
文化にしろ習慣にしろ自然と覚える。」
といつもと変わらずキツイ言葉を叩きつけた。自分が色恋に興味を持っていると思われたのが気に入らなかったのだろう。
対して言われた初代は苦笑いをして「他国語は読めないんだがな……。」と呟いていた。

恋人……か。 そう言われるとキリエの笑顔が真っ先に頭に浮かぶ。
フォルトゥナに居る彼女はどうしているのだろうか。街の復興も気掛かりだが、彼女の、キリエの安否が本当に気になる。定期的に連絡を取っていても心配なものは心配だ。

「ネロ、会う予定は無いのか。」
二代目が俺に聞く。誰が、何て言われなくても流れ的に一人しかいない。
「ねぇよ。今日初めて知ったし、キリエだって忙しいからな……。」
こういう記念日とかは今まで気にしてなかったけど、言われると実行したくはなる。
だが会えないものはどんなにねだっても我儘言っても会えないのだ。悲しいがそれよりもキリエに何もしてやれない悔しさがデカイ。
今からでも、会えたら……会えたら一日中一緒に居てやるのに……。

「でも会いてぇんだろ?」
おっさんが当たり前な事を聞いてくる。そんなの言わなくても分かってるくせに、何を今更聞いてくるのか。
「当たり前だろ。」
俺はおっさんに即答するとおっさんはどことなく楽しそうな雰囲気を纏わせつつ、また質問してきた。
「じゃ、今ここにキリエの嬢ちゃんが来たら男らしくデートなり何なりしてやれるか?」
ますます訳が分からない質問をしてくるが、おっさんなりの考えがあるんだろう。
俺は少し考えてから結論を出した。
「男らしくっつうのは難しいかも知れねぇけど、喜ばせてやりたいとは思う。」


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