Sweet dream

□覚めて
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 目が覚めた。いやな覚め方だった。ベッドの上で飛び起きて荒い呼吸を繰り返していると少しは気分が落ち着き、先ほどのことを冷静に考えることが出来た。
 窓の外を眺めると、外はまだ暗く、半分より少しだけ欠けた月が瞬く星と共に浮かんでいた。
 
 悪夢だった。しかも今までとのは比にならないくらいの嫌な夢だった。現実なのかと錯覚するほどリアルで、今も夢の中にいるんじゃないかと、まだ悪夢の続きなんじゃないかと不安だった。
 汗が頬を伝ってシーツの上に落ちる。捲くったシーツはそのままに再びベッドに倒れこんだ。自分の腕を額に乗せ、天井をじっと見る。寝る気は全くしない。悪夢を絶対に見そうで「寝ろ」とどれだけ言われたとしても寝たくなかった。
 だが、眠気には勝てない。今はまだ大丈夫だが、そのうちウトウトと舟を漕ぎ始めるのは明らかだ。もうあんな夢を見るのはごめんだが、どうしようもない。
 こんな事でシャルルを呼びたくなかった。シャルルなら迷惑とも思わずに一緒に居るなり、眠くならないようにするなりしてくれるだろう。けどシャルルが、いつも忙しいのを知らない訳ではなく、知った上で用事を増やすほど私は鬼にはなれなかった。
 ふと先ほどの夢を思い出す。苦しくて、胸が押し潰されそうだ。いつもの悪夢は耐えられるのに、今回は更に辛いものだった。望まない夢を見せられるのには慣れていたはずで、最近もこういった夢を見る事が無かった訳じゃない。それでも心臓を握り潰されるような痛みを味わった。
 気付けば、涙が零れていた。ボロボロといつの間に流れていたのか私の腕に、シーツに、頬を伝って落ちていく。自分では今は落ち着いてきたので、泣くほど辛いとは思っていないのだが、心の底では苦しくて助けを求めたくて堪らないのだろうか。
初めて涙を見る人の様にただボーッと雫を眺めていると、虚しいような哀しいような、不思議な気持ちになった。虚無感 と言えば良いのだろうか。フワリと何も無い空間にたった1人で放り出された感じだ。
本当は、心の奥では、大声で泣き叫びたいのだろう。誰かに縋りたいのだろう。でも、それは叶わない事だ。みんな眠っているし、何よりも人に頼ってしまうのが嫌だった。涙を見せたら、ここに居る人達は心配して、慰めてくれるだろう。どうした?と気遣ってくれるだろう。それは甘えてしまう事を意味する。優しさに埋れてそれを甘んじて受けるのは、多少なら良いのかも知れないが、中毒性がある。依存してしまいたくなかった。
けど
「……どうしろって言うの……?」
このまま、悪夢に魘され続けて死ね とでも言うのか。そんな事じゃ、人は死なない。今は耐えられないくらい苦しいけどきっとそのうち慣れてしまうのが目に見える。それは自分の感情が少しずつでも死んでいくという事だろう。悪夢は私の心を殺したいのだろうか。自分が見る夢のくせに。自分で自分を殺そうとするなんて馬鹿げている。もっとも、無意識下でそれをやっているのは私なのだが。まったく、自分でも何がしたいかよく分からない。

ガチャッ
扉が開く音がした。意識して聞いてなかったから、どこから音がしたのかイマイチ分からなかったが、誰かが起きたのだろう。
二階に降りているらしい足音を聞きながらベッドの上に座っていると、急にさっきの悪夢が頭の中をグルグルと駆け巡り始めた。何故かは分からない。だけど振り払うことが出来なかった。

ーーーーー会いたいーーーーー
誰かに会いたい。誰でも良いから、この悪夢を少しでも忘れさせてくれる、少しの間でも一緒に居てくれる人が欲しかった。頼りたい。甘えたい。 そうしてはいけない気持ちよりも、望む気持ちの方が強かった。

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