見渡す限りの世界へ

□友情と証と
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ミーティアは髪をなびかせながら階段を駆け下り、
噴水の前に着くとクルリとエイトの方を向いた。


「ここでお話しましょう!
ねぇエイト、あなたはどこから来たの?
おそとはどんなところ?魔物って怖いの?」


「あ、え?えっと、その…」


突然の質問攻めだ。
今まで何度も質問されてきたエイトも、さすがに困ってしまい、しどろもどろになっていた。

その様子を見たミーティアは自分の口を慌てて両手で押さえた。


「ご、ごめんなさい。
同じくらいの年の子どもとお話するの、すっごく久しぶりだったから…つい」


彼女の言った言葉の意味が、
エイトには何となくだが理解することが出来た。


『"身分"って言うのが違うんだ。
あんたはどんな粗相をするか分かんないからね!
絶対姫様に近づくんじゃないよ!』

城のおばさんが、子どもに言い聞かせていた言葉だ。



たしかに、自分と彼女は生きる世界が違う。
身分も違う。
流れている血の尊さが違う。

でも…

自分と同じ。彼女も"1人"なんだと。




「…いえいえ。
その、1つずつなら答えますので…」


申し訳なさそうに俯いたミーティアが、その言葉で目の輝きが戻ったのが分かる。


「ホント!?
じゃあ、エイトはどこから来たの?」


「…すいません。
僕も覚えてないんです、どこから来て、僕が誰なのか。」


「先生から聞いたことあるわ、きおくそうしつ…?って言うんでしょ??」


「きおく…そうしつ?
よく分からないですけど…たぶんそうだと思います。」



「きおくそうしつ、ね…
自分のことが分からないなんて、想像したら恐ろしいしいわ。
エイトは怖くないの?」


「もちろん怖いです。
でも…思い出したらいけない、みたいな気がするんです。
それが何でなのかも、分からないんですが…」


ふーん、と首をかしげながらミーティアはエイトを見る。


その翡翠色の目が少し下に動いた。


「あら?ポケットの中に何がいるの?
モゾモゾ動いていたように見えたけど…」


「はい、ネズミのトーポって言います。
気が付いたときから、ずっとそばにいてくれてました。
もしかしたら、記憶が無くなる前からずっと一緒にいたのかも。」


そっとエイトがポケットからトーポを出し、小さな手のひらに乗せた。
トーポはクリクリとした黒い目でミーティアの方を見た。


「はじめまして、トーポちゃん。
とっても小さなお耳ね、シッポも可愛らしいわ!」


ミーティアが指で頭を撫でてやると、
トーポは気持ち良さそうな顔をしてシッポを振った。


「きっとトーポも姫さまに撫でられて嬉しいんだと思います。
トーポは、こうやっていつも僕に元気をくれる。
僕の、たった1人の大事な友達なんです。」


「何言ってるのエイト。
ミーティアもあなたのお友達でしょ?」


「え?」


「だって、こんなにお話したんだもの。
もうお友達じゃない?
それにミーティア、お友達って呼べる人がいないの。
エイトとお友達になって、もっとエイトのこと知りたいわ!」


顔を上げるとミーティアはニッコリ笑い
当然でしょ、とでも言いたげな顔でエイトを見ていた。


「ぼ、僕なんかが姫さまの友達でいいんですか?」


「なんか、ではないわ。
エイトとお友達になりたいの!
ミーティアもあなたを元気にしてあげる!」


戸惑っていると、ミーティアは手を出してきて
そっと小指を立てた。


「さぁ、お友達の証よ!」


エイトはマネをしてみると、ミーティアは小指をからませて
ハンコを押すように親指を合わせた。


「これで今日からミーティアとエイトはお友達ね!
よろしくエイト!!」


「は、はい
よろしくお願いしますっ」


ペコリと頭を下げるその姿を見て、
ミーティアはふふっ、と小さく笑った。


「エイト、お友達なんだから敬語はやめて。
"ミーティア"でいいのよ。」


「えっ!で、でも…
いくら友達でも姫さまは姫さまですし…」


「そう…エイトもミーティアのことそういう風に思うの…
別にいいわよ、気にしてないもの。」


わざとらしそうに俯き、声のトーンを落として
後ろを向いてしまった。
そんな彼女の様子を見て少し考え、エイトは顔をあげた。


「分かりました。ミ、ミーティアさま…」


「"さま"はいらないわ。」


「じゃあ…ミーティア…?」


遠慮がちに小さく呟くように言うと、その言葉に反応して
笑顔でこっちを見た。


「そう、ミーティアよ!
あと敬語もなしよ、お友達だもの。今の遠慮とかもいらないわ。」


「わ、分かった。
じゃあ改めて…。よろしくね、ミーティア。」


「ええ、よろしくエイト。
ずっとお友達でいてね、約束よ!」






 
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