見渡す限りの世界へ

□買い物に行こう 1
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_長い月日が流れた。





エイトもミーティアも、共に12歳。
13歳で成人を迎える彼らにとって、この1年はとても重要なものとなる。



あれからエイトはミーティアの小間使いとなって、身の回りの世話をしている。
始めの頃は慣れない作業にもたつく姿が目に余っていたが
もう3年ともなると、その辺のメイドよりもテキパキとした仕事ぶりを見せていた。


一方のミーティアは、幼さを未だ残しながら母親である王妃によく似た、清楚で大人しく美しい少女に成長した。
ピアノの腕も磨きがかかり、礼儀作法、舞踏会でのダンスも誰もが目を引くものとなっていた。


とある晴れた日の昼、食事をしながらミーティアはトロデにある相談をしていた。




「ねえお父様、明後日はエイトのお誕生日でしわよね?
何かプレゼントを贈りたいのだけれど… お父様は何がいいと思います?」




「そうじゃのぉ。
ミーティアが選んだ物なら、あやつは何でも嬉しいとおもうんじゃが?」




「そうかもしれないけれど、何がいいか思いつきませんの…。
出来れば日常的に使えそうな物がいいのだけれど
エイトなら大事にしまってしまうかもしれないわ。」




エイトの誕生日…トロデが彼を拾った日が、あと2日まで迫っている。
13歳___成人となる歳の記念として、何かプレゼントしようと考えた。



人にプレゼントを贈るなど、トロデや亡き王妃にしかしたことがない彼女にとって
同じ年頃の、しかも少年の喜びそうな物のアイデアなど、思いつかないのだった。




「うむ…そうじゃのう……」



実はエイトは兵士に志願していた。
ミーティアは一国の姫。狙われることも多い。

過去に一度、夜更けの場内に姫を狙った侵入者が入ったことがあった。
すぐに兵が取り押さえたから被害は無かったが、一方間違えればミーティア命に関わっていたこと。


エイトは噂でそのことを耳にしただけだったが
その頃から兵士になり、姫を守りたいと言う意志が芽生え始めた。


しかし、ミーティアの最も親しい友となった今、万が一のことがあれば娘が悲しむ。


トロデはずっとその願いを取り下げてきたのだが
その日から、こっそり城の兵士たちに稽古を付けてもらいに行っていたのだ。


真剣に兵士への道を考えている。
それにもうエイトも自立する。彼の意志を尊重しようと思ったのだ。


ただ、このことはまだミーティアは知らない。
エイトから「ちゃんと兵士に採用になってから伝えたい」と言われていたからだ。


兵士として必要になる物を贈ってはどうか……という手があるのだが
彼の頼みを無には出来ない。



「いっそエイトに尋ねるのはどうじゃ?」




「でも、それならサプライズになりませんわ。」




むぅ…とトロデは唸り声を出す。
しばらく考え、ハッと顔を上げた。




「それなら、一緒に買い物に出かけるのはどうじゃ?
それとなぁくエイトに欲しい物を聞き出すチャンスが出来るじゃろう!
なかなか町に出る機会もすくないしのぅ。どうじゃミーティアよ」




「まあ!すごくいいアイデアですわ!
さっそく明日参ります!馬車と兵達の準備をいたしましょう!
お父様ありがとう!」




それからすぐに食事を済ませ、城下町であるトラペッタ行きの馬車を用意するように言った。




**********

「エイトー、エイトはいらっしゃらない?」




ミーティアは小間使いたちが使っている部屋へ行ってみた。
そこには休憩中のメイドが数人居ただけだった。




「エイトなら、先ほど休憩に入られました。
何かご用件でしょうか。」




「一緒にお出かけしましょうってお誘いをしたいの。
どこに行ったか分かるかしら?」




「お出かけ…?でございますか。
はい、直ちにご案内させていただきます。」




メイドに連れられ、エイトがいると言う食堂へ向かった。



扉を開けると、兵士達と食事をしているエイトがいた。




「エイト!」




ミーティアが呼ぶと、その場にいたものすべてが立ち上がり、
姫へ向かって敬礼をする。


「あ、ふ、はい!どうしたの?」




エイトが食べかけのパンを片手に問う。
周りを見ると、口をモグモグさせている者がたくさんいた。




「お食事中、みなさん申し訳ありませんでしたわ。
元に戻って構いません。
エイト、明日一緒にトラペッタへお買い物へ行きませんか?」




「トラペッタ?僕は構わないけど…
お買い物なら、僕でなくとも付き添いの兵がいるんじゃない?」



「エイトと行きたいの。ダメかしら?」


困って俯く主人にNOとは言えない。



「ぼ、僕でよかったら全然いいよ!」


「まあ、ありがとうエイト。明日のお昼から参りましょう!
楽しみにしてますわね。」


姫はパッと花が咲いたような笑顔を見せ、メイドと共に食堂を後にした。



「姫君とお買い物かぁ〜、羨ましいなエイトめ!」


「めったに無いお誘いじゃねえか、このこの〜!」


兵士たちに突っ込まれる。
ミーティアと何かに誘われることが多いエイトだが、
さすがに城外へ一緒に買い物に出るのはこれが初めてだった。


「でも、急にどうされたのかな?
そんなこと誘われたことなかったのに」


茶化す兵たちに混ざって、一人真剣な表情をした者がいた。
それは幼い時からよくしてくれていた近衛隊長、トムだった。



「いいじゃねえか。兵士に採用されることになったら、さっきみたいに接することも出来ないこともあるだろう。
直属の兵を望むとなれば…なおさらな。ちゃんと楽しんでこい。」


「うん。ありがとう、トムさん。」


**********


次の日。

「ねえエイト、トラペッタで何を買おうかしら。
エイトは何か欲しい物とかないの?」




さっそく馬車の中で聞き込みをしていた。
ミーティアの問いにうーんとエイトは考える。

答えが返ってくるのを祈り、目を輝かせながらじっと彼を見つめた。




「欲しい物か…パッと言われても何も出てこないなぁ。
ミーティアは何を買いに行くの?」




欲しかった答えが返って来ず、ミーティアは少しガッカリする。

でも不審がられてはいけない。
すぐにいつものように振る舞おうとする。



「そうね、お父様から頼まれた新しい羽ペンでしょ?
あとはね…今度の舞踏会で着ける装飾品を見に行くの!」



「舞踏会…?
そっか、年末にはミーティアの誕生日会の催しがあるんだったね。
もう僕たち、13歳になるのかぁ。」



"誕生日"というワードが出てミーティアはヒヤヒヤしながら
会話を続ける。



「そ、そうね。
私たちも出会ってもう5年近くになるのかしら。
私もエイトも、少しは成長出来てるわよね?」



「ミーティアはもうすっかり立派なお姫様だよ。
ピアノもすっごく上手だし。」



「うふ。ありがとう、エイト。」



(僕もミーティアを見習って、もっと強くならないと。)



彼女の笑顔を見て心の中でそう誓い、グッと拳を握りしてたことに
ミーティアは気づかなかった。



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