見渡す限りの世界へ

□見習いになる
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数日が過ぎた。

ミーティアは暇さえあれば、エイトのもとに遊びにいっていた。

そんな2人を、引き離そうと周りは考えた。
姫と下働きでは身分や生き方が違う。
2人のこれからを考えると、一緒にいても良いことはないだろう。

もちろん、トロデもそう考える大人の1人だった。
可愛い愛娘が、どこの馬の骨とも分からない少年の
近くに置いていて良いわけがない。

今日もそのことで大臣ともめている最中だ。



「陛下っ!よいのですか!?
あのエイトとか言うものが、もし暗殺を生業とする者の類であれば
姫様にもしものことがあってからでは遅いのですぞ!
ここはせめて、エイトに監視をつけるべきではありませぬか!?」


大臣が早足で自室に戻ろうとするトロデの後を追いかけ
汗を拭いながら早口で問う。


「騒々しいやつよのう。
そんなことくらい、わしとて分かっておるわい!
じゃが…」


窓から庭を見てみる。
そこには、休憩中のエイトの隣にミーティアが座り、
仲良く楽しそうに話をしている姿があった。


「いつも寂しそうにしていたミーティアが、
笑わなかった無愛想なエイトが、
あのように普通の子どものように遊んでいる様子を見ているとな、
…今はこのままで良いと思ってしまうのじゃよ。
しばらく様子を見てみるとしようぞ。」


「むむ…。
確かに、あの者が来てから姫様は子どもらしい…と言いますか、
今までとは雰囲気が随分お変わりになられました。
陛下がそうお考えなら、私どもはそれに従うまでです。
しかし、少しでもおかしな行動が見られれば
すぐにあやつを牢へ閉じ込めます!
いくら子どもでも甘く見てはいけませぬぞ。」


「分かっておるわい…。
もしエイトが事件やなんやを起こしたら、おぬしの言う通り
牢屋に打ち込むなりなんなりすればよい
…そうじゃ!
エイトを城内で働かせたらどうじゃ?
見習いのうちは上の者が指導兼見張り役をすればよいじゃろ。
監視が出来て、若い働き手も増える!一石二鳥とはこのことじゃ!」


ナイスアイデアじゃろ!と自慢げに言うトロデを見て
しぶしぶ大臣も頷く。


「分かりました。
早速そのように手配致しましょう。
くれぐれも!油断していては足元をすくわれますことを肝に命じておいて下され!」


何度も念押しをする大臣を鬱陶しそうに追い返して
もう一度、無邪気な子どもたちを見て願う。
どうかこのまま何も起こらないでいてほしい、と。


**********


次の日の朝、エイトは厨房に呼び出された。


「大事なおはなし…ってなんだろう。
トーポ、なんだか僕、ちょっと怖いな…」


ポケットの中から、エイトの声に応えてトーポが顔を出し
チュ!っと何かを訴えるように一鳴きした。


「そうだよね、大丈夫だよね、うんうん…」


厨房への扉を開けると、男2人と女性が待っていた。


「きたかエイト。
陛下から言われたかもしれないが、最近兵力を増加してな。
人数が多いのに調理場が追いついてないんだ。
ってことで、さっそくだが働いてほしい。もちろん、仕事の内容は少しづつ覚えてくれればいいからな。」


日焼けして小麦肌になった兵士に投げかけられる。
ここにしか自分の居場所はない。追い出されるわけにはいかない。
ミーティアとも、一緒にいたい。


「ここにいたいです、働かせてください!何でもします!」


「よし、いい返事だ。
じゃあ今日からこの2人がお前の指導役だ。」


兵士が指差す方向には、白いコック帽を持った大男と
エプロンをつけた女性がいた。


「わしはこのトロデーン城の料理人、ライスじゃ。
まず、キッチンで下働き見習いとして働いてもらう。
最初は簡単な仕事しかやらん安心しろ。ビシバシ鍛えてやる。」


小太りで目は釣り上がり、白い髪と髭を生やし、腕捲りした腕には筋肉がはち切れんばかりについた風貌に
エイトは圧倒されてしまった。


「もうあんた、なに怖がらせてんのよ。
ごめんねエイト、この人ったら口が達者じゃないから。
あたしはパスタ。みんなから"パスタおばさん"って呼ばれてんの。
エイトも気軽に話しかけてね。これからよろしく。」


ライスの肩をベシベシ叩いてやってきた、少し小太りでライスと同じ白いエプロンをつけた女性。
ライスとは違って、優しさが滲み出ている。
親しみやすさを感じた。


「よ、よろしくお願いします。ライスさん、パスタさん。」


「挨拶も済んだところだ、早速はじめてもらうぞ。
まずは皿洗いから覚えてもらう。
人手が少ねえったらありゃしねえ。あの王様兵士にばっか手まわしてんじゃねえぞ!
その分働いてもらうから覚悟しとけ。」


「あ、はい…」


キッチンへ行こうとしていたライスは、目を光らせて
エイトの方に振り返る。


「声が小さい!!」


「は!はい!!」


その後を追いかけて行く小さな背中。
エイトの見習い生活が始まった。


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