見渡す限りの世界へ

□買い物に行こう 2
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話をしているうちにトラペッタに着いた。
結局、馬車の中ではエイトの欲しいものを聞き出す事は出来なかった。


「まだまだ時間はたっぷりありますわ…」


「どうしたの?何か言った?」


「い、いいえ!何でもないわ。
さあ、準備をして早く馬車を降りましょう。」



馬車を降りる前に、ミーティアは白いフード付きマントを羽織る。

今日はトラペッタで旅の商人たちがバザーを開いている。
いつも以上に賑わっているため、兵たちの警備も厳重になっている。


尊い姫の姿を晒すわけにはいけないので、こうやって城下町を出歩く時は顔を隠しているのだ。

そうすれば、周りはどこかの富豪か貴族の者という程度の認識しかしなくなる。

馬車を降りると、活気のある町が眼下に広がっていた。




「まぁ!こんなに賑わう町を見るのはいつ以来かしら。
どこから見て回ろうかしら?」




弾んだ声で辺りを見渡す姿に、エイトは笑みがこぼれる。




「まずはトロデ様の羽ペンを探してみてはいかがでしょう?」




「そうね、そうしましょう。
もうエイトったら、身分を隠しているんだもの。
いつものように話してくれればいいのに。」




「ここは外の世界ですから。パスタおばさんとの約束なんだ。」





外の世界
エイトの教育係をしているパスタが言った言葉を思い出す。




『エイトは姫様の友達だけどね、大人の中にはそれが通じない人もいるの。
だから、外の世界に出る時やそこからやってきた人の前では
ちゃんと「姫様」って呼んで、言葉遣いも丁寧にするんだよ。』




言っている意味が分からなかった。
でも約束は約束、ちゃんと守らないと怒られてしまう。




「さ、姫様。あちらの方から見てみましょう」




先鋭の兵3人に囲まれながら、エイトとミーティアは歩き出した。



**********


「お父様の羽ペンでしょ、髪飾りに、可愛い置物も見つけたわ!あとは…」




少し離れたエイトに目をやる。
いろいろ見て回ったが、何をプレゼントすればいいのか分からないままだった。




「どうしましょう。
このままでは、せっかくお父様が下さった機会が無駄になってしまうわ…」




それに、ずっとミーティアの側から離れないのでこっそり買い物をすることも出来ない。
めったに買い物に出ることもないミーティアにとってはチャンスは今日しかない。




「ねえ、少しエイトと別行動がしたいの。」


ミーティアは兵士に問うてみる。
想像通り、不思議そうな顔をして兵士は答える。




「ミーティア様をお一人には出来ませんが、エイトを一人にすることなら問題ないでしょう。
しかし…失礼ですが、突然なぜです?」




「実は…。」




どうして今日この買い物にきたのか、兵士に本当の理由を話した。
心中を察したようで、彼はうんうんと頷いていた。




「なるほど。姫が買い物など、おかしな話だと思っていましたが…。
そういうことでしたか。」




「ええ、何かいい考えはない?
私には全然思いつかなくて、困っているの。




「ならば、バンダナなどはどうでしょう?
平凡な物ですが、高いものはエイトの性格上遠慮してしまうのは、ミーティア様もお察しの通りです。
日常的、かつ実用的なもので、今兵士の間で流行な物と言えばバンダナが一番かと。
しかし、この辺りでは出回っていないので、売ってあるか分かりかねますが。」




バンダナは包帯にもなるし、オシャレにもなるのです!となぜか語り出されてしまった。


一般人の価値観を持つ彼の意見は説得力がある。
バンダナと言うものに親しみがないミーティアにとっては興味をそそられる物だった。




「バンダナ…薄い布生地というのに実用的でなんて立派なんでしょう!
さっそく探しに行きましょう!」



「畏まりました。
しかし、一言声をかけておかねばエイトも心配するでしょう?」



「あなたたちもついているし、なるべく近くですぐに戻って来られれば大丈夫よ。
エイトもほら、せっかく楽しんでいるのに悪いわ。」



「そう、ですか。ではすぐ戻れるよう、急がねばなりませんな。」



珍しい出店を見るのに夢中になっているエイトの目を盗み、兵を連れてその店へ向かった。



**********


「うーん…。」


エイトはある店の前で唸り声を上げながら考え込んでいた。
そこは女性用のアクセサリーが売っている場所だった。


「ミーティアは何でも似合うけど…好みに合わなかったら大変だ。」


エイトもミーティア同様、誕生日プレゼントを選んでいた。
姫と言う身分上、物に困ることはないだろう。
しかし、この節目の年に、どうしても自分で選んだものをプレゼントしたかった。



「やあやあ兄ちゃん、彼女さんへのプレゼント探しかい?」


店の主人が微笑ましいなあ、と言いたげな顔をしながら寄ってくる。



「か、かの!?そ、そんなものではありません!
ただ大事な人の誕生日に…何か記念になるような物をって…」



「そうかいそうかい、若いのぉ。じゃあこんなんはどうですかな?
両手首と腕の3つセット!金を使ってあるので値段は少し…
でも3つでこの値段!お買い得なのは間違いナシ!!
どんなコでも似合うと思いますぞ?」




商人が差し出してきたのは、金色のバングルだった。
いつもミーティアは金の髪飾りを付けている。

亡き母である王妃から貰った大切な物だと言っていた。
確かに安いとは言えないが、毎日働き、買うものも特にないエイトの貯金でも買える値段。
これなら普段でもそうでなくても使えるのではないか。



「では、これお願いします。」


「毎度あり!箱にきっれいにしまっておきますぞ。
彼女さん、喜んでくれるといいですな?」


「か、彼女じゃないです…。」


ふてくされながら商人から品物を受け取り、辺りを見渡す。


「あれ?ミーティア…?」


目に映りこむのは、バザーを楽しむ城下民の姿ばかりだった。



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