見渡す限りの世界へ

□買い物に行こう 3
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「ミーティア?…一体どこへ??」


辺りを見渡す。
しかし、白いマント姿の少女は見当たらない。


「ま、まさか…誘拐!?
それで兵たちも探してるんだとしたら…
でも、どうして声をかけてくれなかったんだ?
……僕が…無力だから?」


考えるほどに情けなくなってくる。
そんな考え事をしている暇はない、と頭を左右に振り、エイトは走り出した。




(ミーティア…どうか無事でいて…)



角を曲がった先
ちょうど買い物しているエイトの死角から
人混みの中から白い布を羽織った人の姿がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。


「ミーティア!」


「エイト、どうしたの?そんなに息を切らして。」


名前を呼ぶと、その人はフードで見えない顔を上げた。
周りには兵の姿も見えた。
無事で良かった、と思いより先に声が出ていた。


「どうしたの、じゃないよ!
急にいなくなるから心配したじゃないか!一体どこへ行ってたんだ!」


「ご、ごめんなさい。すぐ戻ってて来れば大丈夫だと思って…
本当にごめんなさい。」


エイトが怒るとき_____それは自分が悪いことをしたときだ。
ハアハアと息を切らしている姿
よほど心配してくれたのだと思うと、自分の安易な考えのせいで…という後悔がやってきた。

兵の1人が前に出て、頭を下げた。


「エイト、俺たちも一声かければ良かったんだ。
勝手に置いていってすまなかった。」


「みなさんもついて行ってたんですね、なら…良かったです。
付き添いで来ているのに、気づかなかった僕にも非はあります…。
一体どこへ行っていたんですか?」


ミーティアは俯向く。
せっかく喜んでもらおうと思ったのに、これでは台無しになってしまう。
兵たちも顔を見合わせて言った。


「とりあえず、ここで話をするのはやめよう。
エイトの声で少し目立ってしまったしな…
もう馬車へ戻ろう、そこでゆっくり話せば…どうでしょうミーティア様?」


「ええ、そうして下さるとありがたいですわ。
ではトロデーン城へ戻りましょう。」


**********


「ミーティア、どこへ行ってたの?」


さっきとは違う、優しい口調でエイトは問いかけた。
ミーティアはずっと俯いたままだったが、意を決したように顔を上げた。


「エイト…あのね。
本当は明日渡そうと思っていたのだけれど…」


そう言ってマントの内側にあるポケットから1つの包みを取り出した。


「これは?」


「エイトのお誕生日プレゼント。
今までなかなかちゃんとした物を渡せてなかったから
13歳のお誕生日は、何かエイトに役立つ物をプレゼントしたくて…」


エイトはミーティアから白い小さな紙包みを受け取った。
丁寧に中を開いてみると、赤いバンダナがキレイに畳んで入っている。


「これを…僕のために買ってきてくれたの?」


声は出さず、コクリと頷いた。
そっと、エイトはバンダナに触れてみた。
つるりとした生地。よく見ると端に刺繍が施されている。

『Eight』と名前が刻まれていた。


「ありがとう…大事に使わせてもらうよ!
それと、さっきは怒鳴ったりしてごめん。
嬉しい、本当にありがとう。」


エイトもポケットから箱を取り出し、ミーティアへ差し出した。


「さあミーティア、開けてみて。」


「え、ええ。」


細い指で箱を開ける。中には3つの黄金に輝くバングルが入っていた。
ミーティアは驚き、目を見開いていた。


「まだ早いけど、僕からの誕生日プレゼントだよ。
僕たち、同じことを考えてたんだね」


エイトは優しく笑ってミーティアを見た。

その笑顔が、思い出の母の顔と重なる。
ミーティアは、今はもういない母に髪飾りを貰ったときのことを思い出した。
バングルを一つずつ腕にはめ、大事そうに握りしめ、涙を浮かべる。


「エイト、嬉しい…。ありがとう。
ずっと大切にしますわ。
…勝手にいなくなってしまって、ごめんなさい。」


「もういいよ、無事で良かった。
でも、次同じことがあったらもっと怒るからね。」


「もうそんなことしないわ。
エイトったら、何だかお兄様みたいね。」


エイトの言葉に、ミーティア頭をブンブン振ってふふっと笑う。


「そうかなぁ?
確かにミーティアはワガママだしおっちょこちょいだし、妹みたいだね。」


「まあ、そんな風に思っていたの?
ならずっと側にいてね、私のお兄様。」


そう言って手を出し、小指を立てる。


「覚えてる?昔、約束したこと。」


エイトは彼女の指に小指を絡ませ、親指をぽんっと合わせた。


「うん、覚えてる。ずっと一緒にいるよ。」



夕陽が沈みかけた頃、馬車はトロデーン城へ戻っていた。



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