見渡す限りの世界へ

□宴
1ページ/1ページ




今日はエイトの13歳の誕生日。


とは言っても、トロデーン城へやって来る以前の記憶が無いため
彼の本当の誕生日や年齢は不明のままだ。

トロデーン城では、彼の元服を祝う宴が催されていた。




「エイト、まずはおめでとう。
弱って倒れていたのが嘘だったかのように、もうおぬしも一人前の人間となった。
これからは自分の行動、言動に責任を持って生きるのじゃぞ。」




普段の家庭では、両親が言葉をかけるのだが
身寄りのないエイトの場合、親代りとなっているトロデがその代わりを務めた。

玉座の間ではトロデとミーティア、大臣はもちろん
ポケットには親友トーポ、周りには城内の民や兵士たちがその様子を見守っていた。


ミーティアの腕には、エイトがプレゼントしたバングルが光り輝いていた。
胸ポケットにキレイにしまったバンダナを、服の上から握りしめる。




「はい、陛下。
今まで頂いた恩を返せるよう、またトロデーンの名を汚さぬよう、精進していきます。」




「うむ!
さあ、お前も飲むんじゃ!酒が飲めねば男として失格じゃぞい!」




トロデが手招きをすると、メイドが1本のワインボトルを持ってきた。
よく見ると、ラベルにはエイトがトロデに拾われた年が刻まれている。





「見ろエイトよ、これはおぬしと初めて出会った時に作られた赤ワインじゃ。
今日のこの日のためにミーティアが準備しておいたのじゃ、さあ飲むがよい!」




トロデが言っているうちに、メイドがキレイな赤紫色の液体をグラスに注いでいく。
注ぎ終わったそれをエイトに手渡し、軽くトロデに会釈をすると
メイドはスッと横へ退く。


その様子をじっと眺め、エイトは目を手に持っているワイングラスに移す。
お酒を飲むのが初めてのエイトにとっては、緊張感が辺りに漂う。




「ありがとうございます、頂きます。」




目を瞑り、グッと注がれた分を飲み干す。
酸味や苦味を感じる。お酒とはこんなものなのか。




「どうじゃ?美味しくないじゃろう。
子供の舌ではワインの美味さは分かるまい。
いつか、それが"美味い"と感じられるようになんじゃぞ。」




「はい!ありがとうございます!」




エイトは戻ってきたメイドに会釈をしてグラスを返して跪く。




「してエイトよ。
おぬし、兵士に志願しておったな?」



「お父様!それは本当なの?」




トロデの言葉に、隣に座っていたミーティアが驚きの声を上げる。




「ああ、そうとも。
実は正式に採用と決まるまで、ミーティアには黙っておいてほしいとのことでな。
驚かしてやろうとしていたのじゃよ。」




ミーティアは跪いたエイトの方を見る。
少し緊張で強張った顔をしていた。


「お父様もエイトも、2人してミーティアに内緒事なんてなさってたのね?
エイトが兵士になりたかっただなんて、とっても驚いてしまったわ。」




「というわけじゃ。
これをこの場で発表した意味、分からないわけがないじゃろうエイトよ。」




その問いかけに、導き出される答えは1つしかない。
今まで、子供だからと取り下げられてきた願い。
ようやくそれが叶う時がきたのだ、と。


「はい、正式に認めてくださる…ということですね?」


エイトの問いに、トロデはニコリと笑って見せる。


「その通りじゃ!
明日から兵士達と混ざって訓練し、腕を磨き、このトロデーン城のために尽くすがよい。
兵士採用じゃぞ!!」



自分を認めてくれた。
子供ではなく、もう大人なんだと。
そんな嬉しさに、先ほどまで強張っていた顔がほころぶ。



「ありがとうございます、陛下!
必ずお力になれるようになります!」




「よかったわねエイト、ミーティアも嬉しいわ!」




「よっしゃよっしゃ!
さあ皆のものよ、エイトへの祝杯をあげるぞ!!」




城内の者たち全てが、エイトへの祝福の歓声を上げた。



Back→買い物に行こう 3
Next→

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ