花束を君に

□No.5
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「なんだ?」
「いやいや、なんでも……」

ないわけない。
何が高級紙だ。
戦闘機の件を含めて、絶対この人金持ちだよね。
なんて冷や汗が出たけれど、本人には黙ってあげよう。

外を見るともう夕焼け。
通り雨でも降ったのだろうか、葉っぱが少し光っている。

「もう6時か……」
「うん」
「帰った方がいい」
「うん、じゃあね」

私は会釈して、海道くんにバイバイを言った。
ふわりと、ポニーテールが風に揺れる。
学校近くの家から、ほんのりとカレーライスの匂いがした。

お腹が空いた。
今日は母さんの仕事が忙しい日。
だから、私が作らないといけない。
あーあ、今日は何にしよう。
こうやって考えることが、実は楽しかったりする。
帰り際、何故だか笑顔が零れた。


「さあ、始めますか!」
一人しかいないので、誰も聞く人などいない。
だけどなんとなく言いたかった。
ただ、それだけ。
小学校の頃家庭科の授業で製作した上手とは言えない黒のエプロンをつける。
冷蔵庫を開けて、必要な具材を出す。
ニンジン、ジャガイモ、たまねぎ、鶏肉、カレールー、その他色々。
言わなくても分かる。
カレーライスを作ることにした。
と言っても、空腹の時にこんな美味しそうな匂いの付いた風が漂ってきたから。
これだけじゃ足りないから、セットでトマトサラダも作ろう。
こんなの作っていたら、食べたくなる。
猫に鰹節か。


料理は完成。
皿につぎ、美味しそうな配置をする。
サラダは量が少なくなってしまったけれど、別に作っている最中に食べたとは言っていない。
「いただきます」
誰もいないダイニングには、一人空しく響く声。
サラダを食べ終え、ジャガイモを口に運ぼうとした時だった。
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