DY小説

□Valentine Day
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メサイア攻防戦後、プラントが停戦協定を受諾したことで戦争は終結した。
オーブとプラント間で条約が結ばれ、それぞれが平和への道を歩み始めようとしている。


あれから数か月の月日が流れた。

ボルテールは現在プラントに碇泊している。
モビルスーツには乗らなくなったものの、オレ達の仕事が無くなるわけではない。

今は戦後処理の会談や決議といった話し合いや、宇宙の巡廻などといった仕事がメインになっている。


次艦が出るのはいつになるかわからない。
上からの指示があるまでプラントの軍基地で待機を命ぜられていた。



今日は午前に隊員を率いて血のバレンタインの追悼式に出席する。
我がジュール隊はラクス・クラインの護衛。

あの日だけでなく、戦時中、戦火に滾っていたプラントの住人も何度彼女の言葉に救われてきたことだろう。
今日も綺麗な歌声と平和を謳う演説で、プラントの民の心に安らぎを与え、追悼式は無事に終了した。


ジュール隊の本日の任務は以上で、午後からは休暇を与えられている。



そう、今日はバレンタイン。

今となっては忘れてはならない悲劇の日になってしまっているが、
本来は女性が想いを馳せる男性へチョコレートを贈る日。


要は恋人に贈り物をする日だ。


男が男に渡すのもどうかと思うが、ディアッカはそういった祝い事が好きだ。

アイツも副官に昇進してから随分と忙しくなって、疲れも溜まっているだろう。
最近は上からの指示で副官の仕事が増え、この時期は隊長である自分よりも忙しそうだ。
仕事量を減らしてやりたいとも思うが、代わりに取り掛かれる程自分も暇ではない。

もし休日が取れれば一緒に外出でもしようかと考えていたが、やはり立場上難しい。


だから数日前から用意しておいたのだ。
アイツが仕事で、オレが非番の日にこっそりと。

オレにはお菓子を作るなんて出来ないから、市販の物だけど。
巷で噂になっているという銘柄のチョコレートをプラントの百貨店で購入し、優しい金色をした箱に、バイオレットのリボンを付けて包装してもらった。


自分で注文したにも関わらず、この包装を見て、

こんなの、オレが欲しいくらいだと心の内で笑った。


手作りではないけれど、それでもきっとアイツは喜んで受け取ってくれるだろう。




追悼式にて任された仕事を全て片し、後処理なども含め、今日のオレの仕事は終わった。


ということは、もうそろそろディアッカも終わる頃だろう。

デスクの引き出しから、丁寧に包装されたチョコレートの小包をそっと出す。
愛着を覚えた包装が施されているそれを軍服の懐にひそめて隊長室を出た。


副官の部屋へ向かうと、黒い影が見えたので、ささっと壁に隠れる。
ちょうど、ディアッカが自分の部屋へ入っていった所だった。


もう仕事は終わっただろうか。


こちらからドアを開けて渡してやっても良いが、どうせならアイツが部屋から出てきたときに渡して驚かせてやるのもいい。




突然渡したら、アイツはどんな顔をするだろうか。



きっと間抜け面だろうな。


だけどすぐに情けないくらいに緩んだ笑顔になって。



“ありがとう”と言って、


きっと、抱き締めて、キスをくれる。



そして…。




…。



一体、何を考えているんだオレは…。




とんでもないことまで妄想してしまい、ひとりで頬を熱らせた。
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