DY小説

□君の背中が映すのは
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――

そして、ディアッカが家に居る日は何事も無かったかのように二人で静かに過ごす。
特別会話が弾むわけではないが、別にそれはいつものこと。

勿論、その時にディアッカのプライベートに触れることはないし、
特に知りたいとも思っていなかった。

夕食を済ませ、翌日の課題に手を付けようとした瞬間、
学校に大切なファイルを置き忘れてしまったことを思い出した。
早急に必要だというわけではないが、手元にあった方が安心だ。
もう遅い時間だったが学校へ取りに行くことにした。


「ちょっとでかけてくる。」

「えっ。おい、イザーク? どこ行くんだよ?」


意外にもディアッカが理由を尋ねてきた。
オレが夜に出かけることなど滅多に無いからだろうか。


「いや、大した事は無い。」


オレがここで答えていれば良かったのだ。
ただきちんと答えるのが面倒だと言う理由で話さなかった。
そして、ディアッカの次の一言がオレ達の関係を大きく揺るがせたということに、後になって気付かされることになる。


「何だよ、まさかお前も、女の子の所にでも行くのか?」



きっとディアッカは冗談のつもりで言ったのだろう。

だがその時のオレには、オレに対する揶揄を交えてそのような言葉を吐いたように、
そして“お前も”という部分に、自虐的要素を感じたのだ。

別に、この発言に対して頭に来たわけではない。
ただ、もし本当だと言ったらディアッカはどんな表情をするのか、興味があったのだ。

そう、考え付いたことは我ながら実にくだらないこと。


「…、そうだ。」

「……何?」


少し間を置いて、オレが放った言葉を理解したのか、ディアッカの口元から笑みが消えた。


「おいおい、マジかよ…。
 何、彼女でもできたの?」

「…オレにだってお前のように女の一人や二人くらいは居る。」

「一人や二人って…、じゃあお前…っ。」


言葉の意味を察したのだろう。勿論嘘だ。
口に出している自分が空しくも感じられたが、珍しく暗い表情をするコイツを見て違和感を覚えながら、いつバレてもおかしくないくらいの下手な嘘を続けた。


「フン…、オレを軽蔑したか?」


めいっぱいの皮肉を込めた。
案外オレはディアッカの日頃の行いに嫌悪感を抱いていたのかもしれない。
こんな言い方をされたら、オレならば言わずもがな癇癪を起すだろう。


「や、なんて言うか…、お前ってそんなことしない奴だと思ってたからさ。」


軽くあしらわれるだけで話が終わるかと思っていた。
興味本位で駆け引きのようなことをしている自分にも非はあるが、
思いもよらぬディアッカの自分勝手な発言にはどうも腑に落ちない。


「…何だと? 貴様、よく人の事が言えるな!」

「あー…。そう…、そうだよな、ごめん。
余計な事言って悪かったな、外は暗いから気を付けて行ってこいよ。」

「…貴様にそんな心配をされる筋合いなど無い。」

「はは、そうだよなあ…。」


苦笑しながらシャワールームへ消えてゆくディアッカの姿を見て、なんだか少し悪い気がした。

…いや、何故オレが反省しなくてはならない。
ディアッカはいつもオレにこう言って悪気も無さそうにふらふらと外へ出ていくではないか。
立場が逆になっただけだ。

今思えば、何故嘘だとバレなかったのかが不思議で仕方が無い。
もう学校へ行くという本来の用事を済ませる気も、まるで失せてしまった。



オレは衣裳部屋で自分とディアッカの分の服を分けてそれぞれのタンスに収納していた。
先程の嘘を吐いたことへの罪悪感と、ディアッカの理不尽な発言、その二つが頭の中を逡巡し、苛立っていた。


シャワールームから出てきて、オレが家に居たらアイツは驚くだろうか。
それとも先程の言い争いの事などすっかり忘れ、呑気に現れるのだろうか。
後者であればビンタの一つでも食らわせてやろうか。

シャワールームのドアが開いて間もなく、リビングから荒々しい声が聞こえてきた。


「…嘘だろ、ふざけんなよっ!!!」
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