DY小説

□You really want to…
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「よし、忘れ物は無いな。行くぞ。」

「桜咲いてるかなー?」



弁当とレジャーシートを入れた手提げ鞄を持って家を出た。

今オレ達が住んでいる場所から徒歩で数分の所に大きな公園がある。
この地域では名の知れた桜の名所だそうだ。

公園にたどり着けば、既に先客が何組か来ており、賑やかな声が聞こえる。



「この辺でいっか。」

「ああ。満開ではないが、見事だな。」

「うん、すっげえ綺麗だ。
あ。ほらイザーク、子供が元気に走り回ってら。」

「ああ。」

「可愛いな。
俺達もやるか。」

「やらんっ。」



まだ8分咲きくらいの桜の木々に囲まれながら、他愛のない会話をする。

いつもと同じで、話していることはくだらないだが、
今日は何もかもが特別に思える。

だって、今日はお前にとって特別の日だし、オレにとっても特別の日。


お前が生まれた日に、こうして今年も二人で一緒に過ごせるなんて。


オレは幸せだな。



「今日は花見に来たんだぞ。
 せっかく天気も良いんだ。よく見ておけ。」

「そだね。
 こっちの桜はホント、綺麗だよなあ。」


「ああ…。」



オレたちは今、地球に来ている。
長期滞在の任務を任されていて、アジアのとある一国家に身を置かせてもらい、ある程度自由も利く。艦内で任務を遂行していたときより休暇を多く与えられ、今日もこのようにして休みを合わせることが出来た。


ここは緑が豊かな国で、この季節は桜が綺麗に咲く。
それまでプラントのそれしか見た事が無かったが、こちらの桜は見事なものだった。

お前と出会うまでは、桜がこんなに綺麗だなんて思わなかったのに。



「イザーク。」

「何だ。」


「今日、ここ来て良かったよ。
来年も来れたら来ような?」


「ああ。来年の今日もまたこんな風に晴れたら、な。」


「うん…。」



ディアッカは、外見だけならば、決して桜が似合う男ではない。

だけど、
その見た目と反した穏やかな口調や視線、
そしてその柔らかい表情。


お前の事をよく知っているオレだからこそ思う。


桜を見上げるその横顔は、この風景がとても似合っている、と思った。








昼は公園でゆったりと時間を過ごし、
午後からは車を出して買い物へ出掛けた。


夜に作る食事の材料を買うため、
つまりディアッカの誕生日プレゼントを作るためだ。



いつも買い物はほとんど、ディアッカが仕事帰りなどに済ませてくる。
帰りが一緒になった時はついていくが、自分一人でこういう場所に来る機会はあまり無く、勝手がわからないのでオレは今日もディアッカについていく。




「イザーク何食べたい?」

「あ、ああ…。
いや、今日はお前が食べたいものを作るんだろう?!」

「俺はイザークが食べたいものが食べたいな。」

「まったくお前は…。
今日くらい自分の思ったことを言えよ。」

「俺はいつもお前に自分の意見を述べてるぜ?
 イザークが食べたいものを食べたいってのも、俺の意見。
 聞いてくれるだろ?」

「…。
…そ、そうだな…オレはハンバーグが食べたい…。」

「りょーかいっ。じゃあ、お肉の売ってる所行こうか。
 せっかくだし、今日はちょっと良いやつ買っちゃおう!」



結局なんだかんだでこういう時、折れるのはいつだってオレの方。
お前の幸せそうな顔を見れば、自我を通そうなんて気も起らなくなってしまうんだ。



その他諸々の食材もディアッカは手に取って見比べて、気に入ったものを買い物かごに入れていく。オレは少し離れたところからその姿を見ていた。
こんなにたくさんある商品の中から選ばなくてはならないなんて面倒なのに、
いつもよりやけに上機嫌なディアッカ。



「…お前、買い物がそんなに楽しいのか?」



皮肉でもなんでもない、本当に素朴な疑問だった。


すると。




「うん!今日はイザークと一緒だから。」



ディアッカは恥ずかしげも無く、無邪気な笑顔でそう言った。

自分から尋ねたくせに、そんなことを言われれば返す言葉が無くなってしまう。





オレは食べたいものをディアッカに伝えて後ろからついていくだけだったが、
ディアッカがあんなにも満足げに買い物をしている姿を見てオレも満足だ。




…オレと一緒だから、だなんて。


今のお前は幸せそうだが、


…多分今は、お前よりもオレの方が幸せだ。
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