輝くイシは夢を信じて
□繋がりを信じますか?
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『もう嫌ッ! あんたみたいな男と結婚なんかしなければよかった!』
『勝手に言ってろ馬鹿女! 俺だってお前みたいな奴うんざりだ!』
ギャンギャンとご近所中に響き渡る喧嘩を、五歳だった俺は無感動そうに見詰めていたと思う。まだ記録を知らない俺だったが、恐らくその日に至るまで毎日のように喧嘩を聞いていたのだろう。その夜、遂に母親は家を出た。後で知ったことだが、父と母はもともと事実婚であったため、離婚届など言うものは提出しなくてよかったらしい。
その夜、俺は中々寝させてもらえなかった。
『信也をあんたみたいな乱暴な男に任せておけないわ!』
『何言ってやがる! 金を稼いでたのは俺だ! お前はただの専業主婦だっただろうが! 今から仕事探すってか!?』
『貴方には生活力がないでしょう! 信也が心配だわ! ねぇ信也、信也はお母さんと一緒に来るわよね!?』
『信也! こんな女に付いていくな! お父さんといろ!』
二人が何を話しているのか丸で理解できなかった。母が家を出る−−その事象すら有り得ないと思っていた俺は、ただ二人の間でオロオロとするだけだった。
結局最後はどうなったのか分からない。恐らく弁護士等に相談でもしたのだろう。結果、母には経済力がなく、また父も俺が母と過ごすなら金を送るつもりもなかったのか、俺は父と暮らすことになった。
今思えば、俺を二人が取り合ってくれた訳は間違いなく二人が俺を愛してくれているからだ。当時の俺には迷惑極まりないただの喧嘩だったけど。
−−ディルムッド・オディナは、どうだったのだろうか。
奴の記録に詳しい父と母に関する記載はない。ただ、養父のオェングスから聞いた話から考察されているだけだ。
オェングスの部下と不倫した母に、不義の子を私怨で殺した父親。ろくでもない両親だ。でもあいつには、あいつを愛してくれる養父がいた。実の親子のように接してくれる人がいた。
−−俺がディルムッド・オディナで、ディルムッド・オディナが俺なら−−……。
俺には誰がいる?
俺にとっての『オェングス』は誰に当たる?
ディルムッドの父親は『輝石 澄(キセキ トオル)』、母は『波野 千津子(ナミノ チヅコ)』。母はきっと誰かと再婚して、子供が出来ただろう。再婚相手が養父の部下で、その子供が父親違いの弟、ベン・ブルベンの山でディルムッド・オディナを殺した猪だ。
−−養父は?
俺を愛してくれる養父は誰だ?
人間の関係を考えれば再婚相手の上司だ。
でも俺はその人を知らない。