輝くイシは夢を信じて
□仮説を信じますか?
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広い城の中、戻る道さえわからなくなるが、お構いなしに俺は歩き回った。そのうちに、目から涙は流れ出る。たまに口から漏れる嗚咽すら腹立たしい。
「っ……はっ……」
悔しい……ディルムッド・オディナの代わりに参加した自分の正体が、自分の細い身体が、ない体力が、弱い心が。
あぁ、どうせ英雄じゃねぇよ。悪いかよ、知るかよ、参戦だって俺の意思じゃねぇよ。文句言うなよ……!
『友達に、謝りたい』
あぁ、でも、逃げられない。俺は願いを口にしてしまった。そしてケイネスと契約を交わしてしまった。
途中で疲れて、階段に座った。
ゆう、と名を呟いた時、気配を感じた。
「ランサー……」
「……セイバー……」
セイバーは俺の横に腰かけた。
「私のマスターが、すまなかった」
「……別に」
頭を下げたセイバーを一瞥し、また俯く。セイバーが頭をあげたのを感じた。
「……だがな、ランサー。左腕が治らないことで、お前の正体が何と無く掴めたぞ。風王結界の亀裂に、鎧が意味がないという言葉。黄色い槍にやられた治癒不可能の傷、何より……その右目の下の、乙女を惑わす泣き黒子……『ディルムッド・オディナ』」
「……」
心臓の奥が痛む。左胸のあたりのベストを握った。
「……痛むのか? ま、まさか、キャスターに何か……」
俺は横に振った。違う、とくらい言おうと思ったが、声が出なかった。
「そうか、よかった……あの、ランサー……わからないことがあるんだ。お前の服装とか、体格、とか……フィオナ最強の騎士だろう? なのに……」
「言ったって理解できねぇよ」
それは嘘ではない。どうしようもなく、事実だ。でも、それをうまく伝えられない。裏切る奴に伝える必要もない。自害するところを読み直した。もっとも、そのページ……自害のページは、どんな最期なのか細かくはわからない。何故なら……。
【セイバーどうして何で許さない許さないユルサナイ赦さない赦さない許さないユルサナイ裏切り者赦さない……】
頭痛がする。読むのを止めた。
「そう、か……」
……良さそうな奴なのにな。結局は聖杯が欲しいだけの外道になるのか、こいつも。最後まで騎士でいられたのは、俺の前世だけなのか。
それでも、何故だろう、俺の脳はいくつかの矛盾点を見つけていた。倒したいなら、ケイネスに俺の自害を迫るようにしなくても、こいつの奥義で全員殺してしまえばいい。それに……倉庫街でも、二人は楽しそうだった。文字からでもわかる。二人は楽しんでいた。戦いを。
「……セイバー」