Shine blast
□"光"との出会い
2ページ/14ページ
この春、烏野高校に入学を決めたあたしは体育館の入口に立っていた。真新しい制服は未だ"着られている"感覚が有り、上級生を見ていると幾分羨ましくも思えた。
入学式を昨日終え、今日からは新入生の体験入部期間が始まっている。
「君、マネージャー希望?」
不意に後ろから声を掛けられ、振り返ると黒髪で短髪の先輩が立っていた。バレー部だろうか、黒いジャージを着ている。
『はい、今日は見学していこうと思ってるんですけど...大丈夫ですか?』
「勿論。もうすぐで皆来ると思うから、中に入ろうか」
話を聞くと、この先輩は男子バレー部の主将らしい。温厚そうに見えるけど、怒ると怖そうだなんて失礼なことを考える。
少しして他の男子部員の先輩達が入ってきて、綺麗な女の先輩もやってきた。
「清水、ちょっといいか」
歩く姿も綺麗な清水先輩と目が合う。この人絶対性格も美人だと、直感的に考えた。
「マネージャー希望の一年生。色々教えてやってくれ」
清水先輩はあたしを見て首を傾げ、直ぐに頷いて、手を差し出す。
「マネージャーの清水潔子です。よろしくね」
『疾瀬真夜です。よろしくお願いします』
頭を下げると、清水先輩と澤村さんは顔を見合わせ、あたしを見る。
何かマズかった?お辞儀の角度が甘かった?
焦りながら一歩後退すると、清水先輩に手を引かれた。
「....じゃあ、仕事教えるからついてきて」
『あ、はい』
マネージャーの仕事はタオルの洗濯だったり、スコア付けたり、とか特別なことは無いらしい。たまに備品を買いに行くぐらいなんだそうだ。
「大体はこんな感じだけど、分からないところある?」
『いえ、大丈夫です』
大まかなことは頭に入った。
中学の時にも少し経験した事があるからか、脳内が大混乱に陥る事も無さそうで一安心していると、不意に清水先輩が振り返った。
「......ちょっと聞いていいかな」
真正面から美人に見つめられるの図。
小さい頃からバレー馬鹿に囲まれた生活を送ってきたせいか落ち着かない。
あ、口元に黒子がある。色も白いし線も細い。そんな事を考えながら、ふと自分が男視点になっていることに気付く。
清水先輩の前じゃ、誰もが男らしくなってしまうのかもしれない。
「真夜ちゃんって元、プレーヤーだよね?それも......北川第一の、主将」
その言葉に、一気に現実に引き戻される。
やっぱりバレたか。こんなに早いとは思ってなかったけど...。
『....別に隠してた訳じゃないんですけどね』
清水先輩は何か言いたそうにして、口を噤む。
『中学の時に怪我して、それ以来バレーやるなって言われてるんです。だからマネージャーをやってみようかなって思ったので、ここに来ました』
清水先輩は申し訳無さそうに目を逸らす。
それは態とらしさなんて一ミリも無く、本心からの申し訳無さが露になっていた。
「ごめん。言いたくなかったよね」
『大丈夫ですよ。...今はもう吹っ切れたので』
清水先輩はあたしの言葉に安堵の表情を浮かべる。
本心ではないその言葉に、気付かれる事も無かった。
「...でも、なんでウチ[烏野]に?」
確かに、清水先輩からしてみれば不思議な話なんだろうな。強豪校に行くはずの人が、ここにきたんだからそれもそうか。
『"小さな巨人"に魅せられちゃったんです』
清水先輩は目をぱちぱち瞬かせる。
『あたしはもう一度、烏が飛び立つところを見たい。可能性に懸けてみたいんです』
そう言って笑ったあたしを、清水先輩は目を瞬かせて見据えた。
.