ヴァンパイア騎士 -蒼の姫-
□ホンモノのあなたでいて
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『...あれ、優姫いないの?』
「うん、なんだか最近具合悪いみたいでね。部屋で眠ってるよ」
眉尻を下げながら言う理事長の表情を見るに、どうやら事実らしいと頷く。
『そう...。じゃあ様子見に行ってくる』
「辛そうそうだったら薬飲ませてね」
『はーい』
理事長の部屋を出てすぐ、零と遭遇。
頭を掻きながら歩いていた零と目が合うことも無く、お互いそっぽを向いたままで会話をする。
「...珍しいな」
『何が?』
「ここに居るのが」
『ああ、優姫が見当たらないから気になっちゃってね』
「...今、風呂」
一瞬、顔を顰めた零に違和感を覚えつつ、"この姿"になってからは造作もなくなった取り繕う笑みを浮かべ、柔らかな雰囲気を作る。
『ああ、そうなの?具合悪いって聞いてたから寝たきりなんだと思った』
「.....空元気ってヤツだ」
『いつものね』
皺の寄った眉間を指でつついて、離れる。
もう「人間」ではない私に近づかれるのは嫌だろうから。
それが少しだけ寂しくもあったけど、それがきっと最善の策なんだろうと笑って見せた。
零と別れてお風呂の方へと向かうにつれて、なんだか嫌な予感がしていた。ついこの間の李土とは違う、また何かが起きそうな、嫌な予感だ。ぞわりと背中を撫でる感覚に顔を顰めつつ、ドアを開けて洗面所に入る。慣れた優姫の匂いと、ドアの向こうから微かに聞こえる水音。
『_______...ッ!?』
........あれ?
思わず、拳を握る。
血臭が、した。
でもまさか。優姫は人間だ。
これが夜間部での出来事なら気に留めずに部屋を出るところだけど、ここは理事長の居住区であって、中に居るのは優姫だという確信だってある。
純血種としての五感を持つ今、嗅覚や気配だけで見知った相手を理解する事が出来るのは今更だけど、思わずそれさえも疑わざるを得ないような状況だった。
困惑した私が、優姫の名を呼べる事は無かった。
(貴女はずっと人間なのに)
(何故だか知っている気配がした)
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