Shine blast
□ネコと烏
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早朝。
布団の中でもそもそ動きながら微睡む。
カーテンの隙間から射す淡い光はまだ明るいものではなくて、室内の薄暗さからまだ日は高く昇っていないことが分かる。
[コンコンッ]
「おい、お前今日早く起きるって言ってただろ」
『んー......』
相変わらず朝に強い勇陽。
部活の合宿とかで早朝に出発だとしても、どんなに遅く寝ようが時間は厳守。余裕たっぷりだ。対照的に朝に弱いあたしのフォローもするお兄様だ。
「早めに着替えねーと、兄貴が突入してくんぞ」
『通報してやる.....』
「身内だぞ」
『知らんわそんなん.....』
勇陽と言い合いながらも下がってくる素直な瞼。段々と思考力さえも睡魔に負けつつあった時、ドアの外の声が変わった。
「真夜ー、あと1分で着替えないとそのまま連れ出すからなー」
トントントン...と階段を降りる音が小さくなる。
そこで漸く、脳内で反芻していた言葉の意味が明確に分かった時には、布団を飛び出して寝巻きを脱ぎ捨てていた。
_ _ _ _ _ _
タッタッタッタ....
薄明かりの空の下、閑静な住宅街を走る音が響く。もう家を出てかれこれ一時間近く経とうとしているけど、ずっと同じペースで走り続けていると、烏野の周辺にまで来ていた。
兄...燈真はというと、走り初めの時と変わらないペースで進んでいく。
少し重く感じる自分の足と、その足とを比べると無性に腹が立って、燈真を追い越した。
『ねえ』
「ん?」
『何でこんな時間にランニングしなきゃなの』
「運動は大事だからなー」
『だからってこんな早朝じゃなくても』
「早朝だから意味があるんだぞ」
『嘘言うな』
「まー、あれだよ。目覚ましだ」
『は?』
「お前運動不足っぽいし、丁度いいだろ?」
『...燈真ほど運動してないけどさ』
烏野での練習や町内会の練習、そのどちらに混ざって練習しようにも、代表合宿に参加しながら一日の半分を練習に費やしているような燈真の運動量には適う気がしない。
「しかもお前、今マネージャーやってるんだろ?」
『誰から聞いたの』
「勇陽」
『ああ、そっちか』
「他に誰がいるんだよ」
『純梨ちゃん』
その名前を出した途端、ピシッと一瞬燈真の動きが止まった。ペースを合わせて隣に並んで顔を見上げると、と目を逸らしやがった。
『はーやく結婚しろ奥手野郎』
「なっ、ち、ちがうし!純梨は違う!!」
『はー?説得力無いですねぇお兄様』
なんだこの純粋[ピュア]加減は。
清水先輩に対する田中さんとか西谷先輩みたいだ。いやそんなものじゃないかもしれない。
まるで小学生。
「それに!!俺まだ20だぞ!?け、けけけ結婚とかそんな!なぁ!?」
『動揺し過ぎでしょ』
ついに壊れたらしい燈真は興奮しまくった日向くんのようだ。
『...結婚にあんまり年齢は関係ないじゃん。実際あたし達の両親も21で結婚して23で燈真産んでるんだからさ』
「こここ子供の話するな馬鹿!!」
『煩いよ馬鹿。時間考えなってば』
久々に会った兄は、まだまだ純粋で純真で、少年でした。
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