Shine blast

□凪いだ瞳、流れた時間
1ページ/13ページ

真応での生活が始まって一ヶ月近く。
寮生活や学校生活にも慣れが生じてきて、授業の代わりに部活動に精を出すという校風が楽に思えてきた。
宮城では既にIH予選が始まっているらしく、昨日届いた清水先輩からのメール曰く、明日青城との対決らしい。

「なーにムズカシイ顔してんの?」
『いえ、宮城ではIH予選の半ばなんだなって』
「ああ、東北はちょっと早いんだっけ。...お目当ては白鳥沢?」

思わず震えた指先を抑え、悟られないように薄く笑う。取り繕った外面とは対照的に速くなった鼓動を抑える。

『烏野ですよ、もちろん』
「...そっか」

深追いしない百華さんは、あたしの心境をなんとなく理解してくれたらしい。
たった一ヶ月の期間とは言え、恐ろしいと言えば恐ろしいけど、「先輩」との関係はこういうものだったかなと、若干戸惑う。
思えばニ年以上も上下関係から隔絶されていたようなものだったから、感覚が鈍っている。敬語が正しく使えているかさえ曖昧だけど、真応の上級生は皆そういうのを気にしない質らしい。だからこそ居心地が良くもある。

「ま、コッチも予選まで一週間切ってるし、その烏野の分まで頑張りなね」
『...はい』



「疾瀬」
『はい』

練習の最中、信長サンに呼ばれてコートを出る。
どこに居たって熱気に当てられるような体育館で何時も涼しい顔で平然と指示を出したりする信長サンは実は代謝が悪いんじゃないかって言うのはツインズ談。
汗一つ掻いた様子も無く椅子に座っているからこそ、信長サンの周囲だけバリアか何かが張っているのかもしれないと馬鹿な事を考える。

「先程神楽坂とも話しましたが、あと一週間もありませんから、"アレ"重視の練習をするようにお願いします」
『....わかりました』

頷き、袖を捲る。大分伸びてきた前髪をヘアピンで止め、コキッと首を鳴らす。

"アレ"っていうのは、真応に来てから本来の力に戻りつつある時期になった頃に信長サンと外部コーチ、詩乃さん達との練習の中で見出した新しい戦略。百華さん曰く「革命の一手」だそう。

二面コートの奥では既に、信長サンから指示を受けているのか、詩乃さんと百華さん、ツインズとあと二人が待っている。
ボールを避けながらそこへ向かうと、早速練習が始まった。
痛みを帯びることすら無くなった左肩に触れて何気なく一人ニヤけてしまうのは最早日常になりつつあって、

「真夜がまたニヤけてるー」
「毎日毎日不審者か」

先輩達にドヤされるのも日常になりつつある。
和気藹々としたその空気も好きだけど、スイッチが入ると途切れない集中力を持つこのチームは本当に好感が持てる。
...という言い方をすればなんだか上からになってはしまうんだけど、要するにあたしにとっては理想と言えば理想、そんなチームな訳だ。
当然、集中力だ気迫だというのはレギュラーに限った話では無くて、レギュラーではない選手の皆も空気を乱すようなことは無い。
言ってしまえば悪いところなんて無くて、居心地は最高だ。

「ホラホラ、集中せんかいクソガキ」
「時間限られてんねんでー」
『あれ、ヤッさん居たんですか?』
「居ったわ!!どこ見とったん、自分」
「空気と一体化してたで、ヤヒサ」
「ホンマに!!??」
「なわけあるかいな」

この二人はツインズと同じで、ここに来てから出会った二人。
皆から"ヤヒサ"と呼ばれる見た目が厳ついのが矢壽 玻鐘サン。詩乃さん達と同じ三年生だ。
そしてその幼馴染みだという結原 伶桜サン。二年生唯一のレギュラーだそうで、華道でもやっていそうなキレイな見た目とは真逆の行動に毎度驚かされる。

兎にも角にも『濃い』メンバーの一員になってみると、退屈なんてものとはかけ離れた生活を送っている。
寮に戻ろうとそれは変わらず、レギュラーをはじめとした顔見知りの大半が寮に居るせいでいつだって誰かと一緒になる不思議なシステムになっている。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ