スノードロップ

言葉が足りない
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数週間に渡る海外交流期間を終え、日本に戻ってきた。
バレー部の全国も終わっている今だけど、結果は向こうから言われるまで聞かないことにした。

久々の部活。
顔を出すと、皆が出迎えてくれた。
お土産を部員皆に配り終えて、ふと若利に目がいった。談笑している皆の輪から外れて、体育館を出ていこうとしていた。
ロードワークにでも行くんだろうか。
それにしては少し違和感のある彼の背中を追いかけた。


『若利!』
「.....何だ」


振り返ったその表情は、私が海外に行く前と違った。
目に宿る力が弱い、っていうか....。


『何があったの?』
「別に何もないが」
『嘘つかないで。バレーのことなら私はもう何も口出しできないけど、それ以外のことなんだったら私に話してよ』


途端に、若利の眉間に皺が寄った。
....え、今のどこに怒る要素が....?


「そうやってまた、自分は部外者だと、過去は過去だと言うんだな」
『わ、若利.....?』
「お前は俺の中で、立派なプレーヤーであることに変わりはない。今はプレーをしていなくとも、あの頃と何ら変わりない気持ちを持っている。だからこそ、お前はまだコートの中に居る」
『....それは、っ』


若利に抱き寄せられる。
右手で腰を引き寄せられて、左手で頭を抱き寄せられる。
....若利の匂いだ。

「ベンチにお前が居るのと居ないのとでは、やはり違った」
『....え?』


さっきとは違う少し穏やかな声音。
その変化に動揺してしまった。


「IH予選では、お前が居たからいつも通りのプレーができた。だが強豪校の猛者達が集う全国で、お前が居ないのは大きな穴だった」
『なに、それ。私が居ても居なくても、他にも居るじゃない』
「あいつ等とお前では比べ物にならない」
『酷い事言うのね。でも過大評価し過ぎよ』
「相応の扱いだ」
『.....それはどうも』


不意に力が強くなった。
痛い、っていう強さじゃなくて、まるで傍に居ろって言われてるような。


『大丈夫だよ。私は若利の傍にいるから』


背伸びをして、彼に口付ける。
驚いたように目を瞬かせた若利は小さく笑う。


「...俺は、お前が居ればそれでいい」


彼らしくない、ありのままの言葉。
常に真剣だからこそ、人に注意したり怒ったりできるのも、若利のすごいところ。
「怪童」と呼ばれた彼は、全国でも指折りの才を持ちながら、頂点を目指して跳ぶ。
時に情熱的で不器用だけど、真っ直ぐにぶつかってくれる若利が大好き。

これからも私は、若利の傍にいたい。
そう思いながら、大きな背中に腕を回した







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