スノードロップ
□かけがえのない恋を
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『......若利』
「何だ」
『苦しいんだけど』
「誰の所為だ」
『......私、かなぁ』
疲れたように嘆息した若利が頭を撫でる。次いで髪を梳くその指先が未だ熱を持っている。
そう言えば試合後だったなと、今更実感。
白鳥沢側の人間になると、こんな風に感じてしまうことが、何だか滑稽で。
『っ、ん....』
ぼんやり若利の厚い胸板に顔を埋めたまま考えていると、顎を掴まれてそのままキスが降ってきた。
ああこれ、流行りのやつだっけか。とか思っちゃう私は女子枠ギリギリなんだと思う。
「俺でなければ、浮気現場だろう」
『従姉弟だって知ってるでしょ?』
「他の人間が、それを知っている訳ではないだろう」
『...まあ、そうだね』
強い瞳に飲み込まれそうだ。
私の両頬を、大きな手で持ち上げて視線を合わせた若利は、いつになく真剣。
まさか徹と居た現場を誰かに見られていたんだろうか。
ああでも、あそこは人が通らない場所な筈だし...。別に見られてたとしても何も無いけど。
「青城の奴が見ていた」
『え、ホント?』
まさか、意外だ。
一般通路からはだいぶと離れているし、声なんて到底聴こえる筈も無い。そもそも試合が終わって一時間は確実に経っていただろうに。
「興味を持っていた」
『誰に?徹に?見る目無いねえ』
「馬鹿か。男が男に興味を持って覗くと思うのか?」
手遅れの馬鹿。
暗にそう言われているような言葉と表情が痛い。
『じゃあ、私?何で?』
「俺の彼女だからだろう」
『相変わらず、大胆ですねえ』
当然のように、いや当然っていうか真実だけどそれをサラリと言ってのける若利の剛腹さというか正直さには頭が下がる。
照れ隠しにお道化てみせる私を気にも留めない辺りだって、私の傍に居るようになってからは当たり前の行為にもなっている。
「嫌いか?」
『まさか、....惚れ直したよ』
余程の事態じゃないとポーカーフェイスを崩さない若利の瞳が、ほんの少し揺れた。
真っ直ぐで強い瞳が、私だけを捉えている。
空間を穿つスパイクを打つ大きな手が、私を抱き寄せている。
厚い胸板から伝わる鼓動が、私の言葉で左右されている。
男らしい言葉を紡ぐ唇が、私の名を呼ぶ。
愛していると囁く声が、私を求める。
私には若利だけだ。
きっと、永劫に若利しか求められないんだと思う。
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