小鉢、椀盛
□ぐだぐだ家族録〜フリーダムな父親編〜
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〜次の日〜
「ちくしょー、やっぱり修理に出した方が良さそうだなこれは…!!」
ペダルを漕ぐ度に響くジャラジャラとうるさいチェーンの音。
荷物の重心と共に傾く籠。
音の出どころがわからない、原因不明の金属音。
不知火は色々と問題がある自転車を乗り回し、買い物を終わらせて帰宅している最中だった。
自分が乗っている騒音自転車にいらつきながらもマンションの駐輪場へと入った不知火は、自分が買い物に出る前に駐輪場にはなかったあるものに目を止めた。
「随分と洒落たオートバイじゃねぇか
。」
シルバーのボディにネイビーブルーのラインが入ったオートバイ。
まだ新品らしく、汚れも何もなく綺麗な状態でそこに置かれていた。
「つーか、バイクの駐車スペースはここで最後だった気が…。…残念だったな、風間。」
原チャリを買おうとしていた風間の悔しそうな顔が目に浮かぶ。
あとでメールでもしてやろうかと考えながら、マンションのエレベーターに乗った不知火。
自宅の玄関に入り荷物を置くと、早速その事を母に伝えようと天霧のいる部屋に声をかけた。
「天霧!駐車場に新しいバイクが増えてたの知ってたか?」
「ああ、貴方も見たのですか。風間のオートバイを。」
ため息混じりの天霧の言葉。
不知火こと管理人、これには驚かずにいられなかった。
「…風間のって、昨日それを反対したばかりじゃねぇか!?」
「マンションの理事会にも報告せず、無断であの場所に駐車しているそうだ。」
「…で、今どこにいるんだ風間の野郎は?」
「風間は今出かけている。」
風間は家族から反対された次の日に、勝手にバイクを買ってきて駐車場に無断でそれを置いているらしかった。
当然の如く、その事に天霧は激怒していた。
「マンションの理事会に謝りに行く事になるのは私だというのに…。」
「…原チャリと言い張ってオートバイを買ってくるとは、誰も思わねぇよなぁ…。」
「まず、彼が大型の免許を持っていた事自体を私は知りませんでしたからね。」
「お前ら何年一緒にいるんだよ。」
天霧は不知火と会話をしながら荷物の整理をしているのだが、怒りのためかその手つきは普段より荒々しい。
「お隣りの奥さんの話では、それは嬉しそうに風間がバイクを撫でていたそうです。」
「何だそれ気持ち悪いな。」
「本当に、バイクでクラッシュしたあげくに頭のCTスキャンを撮った男が一体何を考えているのか…。」
「…何やってんだよ風間は。」
~その日の夜~
「おい、今戻ったぞ。」
これでもかと言うほど大きな音を立てながら玄関の扉を開き、色々な意味で家族の話題の中心となっている風間が帰宅した。
「…何だ、お前達のその目は。」
不知火と天霧の二人は、小腹満たしの煎餅を頬張りつつ風間に視線を向けたのだが、当然その視線には風間に対しての不満が込められている。
「…風間、駐輪場に置いてあるオートバイは何なんだよ?」
「ほう、もう見たか。あれはなかなかの物だろう、不知火?」
「…お前なぁ、俺達に何か言う事があるんじゃねぇのか?」
「そうだな…。ヘルメットを被ると髪が潰れるから気をつけろ。」
「…お前のヘルメット事情なんて誰も聞いてねぇよ。」
結局、その後どんなに問い詰めてもバイクの件に全く悪びれる様子もない風間であった。