幕末誤想事件録

□誤想、二。
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しばらくして、質屋から出てきた北上美涼はにやけていた。
…長い前髪と口布で顔が隠れていてわからないが。

『思っていたよりいい値になったか。運がいいね。』

美涼が質に入れたのは、携帯電話や小物をデコレーションするのでお馴染みのお高いスワロフスキー…もどきのプラスチック。
こちらの時代に来る前、ただでさえ低い女子力を上げろと友人に渡され、ポーチにつっこんだままになっていたものだった。
小さいが、色とりどりできらびやかなとても軽い宝石。
軽ければ、櫛や小物につけるのに最適である。
それは良い値で売れるのだ。
そして不思議な事に、

未来から持って来たものは、いくら消費してもなくならない。

デコレーションストーンはケースからいくらでも出てくるし、ポケットティッシュやガムだってそうだった。
それに気がついたのは幕末に来てひと月ぐらい経った頃。
調子に乗ってポケットティッシュを出しまくって宿の一室をティッシュだらけにしてしまい、それを黙々と独りでたたむハメになったのはいい思い出である。
燃やすなりして物体を消滅させない限り無限に使える状況なのだが、できる限りこの時代の人間の目に入らないようにはしていた。
未来からの物体が過去の世界に関わる事によって何が起こるかわからないからだ。
金がなくなりそうだったとはいえ、今回のような事は当分やらないようにしなくては。

そう考えると、お目当ての宿は少々代金が高そうだし、たしか違う所にもっと安そうな宿があったはずだ。
そちらにしよう、節約である。
辺りはもう暗くなってきているし、移動するなら急がねば。
恐らく、裏路地を通れば近道のはず。

ここ最近の京は治安が悪い事を忘れたまま、美涼は裏路地に入って行った。
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