幕末誤想事件録

□誤想、四。
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幕末にやって来て一周年の夜。
北上美涼、新選組隊士達に連行されてます。
自分から諦めたのもあるけど捕まりました。
私は今、事の発端である事故現場に向かって歩いている。
あれは事故だ。
事故だと証明するものが無いだけだ。
だから仕方なくお前が浪士を殺したのか≠ニいう質問に、はいと答えるしかなかったんだ。
…とりあえず、それは置いておこう。
気になる事が二つある。
私の名前を聞かれた時、反応からして相手は私の名前を知っている様だった。
なんで私の名前を知っているのか。
北上という未来人がいる、という様な情報が流れているとか?
それはないと思うんだけどな…。
そしてもう一つが、

「ないない!ありえねぇって!」

「それがありえるんだよ、見りゃわかるって!」

人をチラチラ見ながら内緒話って不愉快だよね。
何を話してるんだこの二人。
平隊士の会話などを聞くに、私の前を歩く二人は新選組幹部の藤堂平助と原田左之助らしい。
もっと違う形でお目にかかりたかった。
あと、このメンバーに永倉新八がいたらもっと良かった。
私は彼の大ファンである。
剣の腕も学もあり、幕末の動乱を生き抜いた末に自分達の歴史を書物として纏め、後世に残していった男。
めっちゃかっこいいよね。
その男と仲がいいので有名な二人に今、

「…本当に、アイツがやったんだな、…これ。」

「ああ、間違いねぇよ。本人も認めてるしな。」

めっちゃ睨まれてる。
それと、原田は藤堂に何を吹き込んだんだ。
藤堂の顔色が急に変わったじゃないか。
事故現場に着き、私の縛られた手拭いを平隊士に任せた原田と藤堂は簀巻きのかけられた浪士とひん曲げた桶を見ていた。
鋭利に尖ったその板にこびりついた血はまだ完全には乾かずに湿っている。
月明かりに照らされ、赤黒くテラテラ光る。
浪士に簀巻きがかけられているという事は、本当に死んでしまったらしい。
事故にしたってなんにしたって、私は人を殺してしまったのだ。
それは変えられない事実だった。
…私の人生、お先真っ暗である。

「おい、北上!ほらよ、これお前のだろ?それ持ってさっさと屯所行くぞ。」

『は?』

役人に突き出すんじゃないの?
…屯所?
新選組の屯所に行くの?
原田に荷物を渡されたが、ちなみに言うと、これは私の荷物じゃない。
被害者の浪士のだよ、たぶん。
…もう面倒だから何も言わなくていいや。

「は?≠カゃねぇよ。お前が俺達に頼んできたらしいじゃん。屯所に行かなきゃ話し合いもできないだろ?」

ちょっと藤堂の言っている事がわからないんですが。
頼んできた?
新選組に私が?
何を?
いつ?
話し合いって、なんの話し合い?
…私のこれからの処遇についてとか?

「あー、もうめんどくせぇな。いいからついて来いって!」

藤堂が手拭いを掴んで私をグイグイと引っ張って行く。
私の後ろに原田、私を逃がさないためか、その周りを平隊士が囲んで歩く。
いやいや、なんで一般人相手にそんな気合入ってんだ。
逃げれないっていうか逃げないってば。
まず、なんで新選組の屯所で話し合いなんてする事になった?
まさか、あの浪士は幕府のお偉いさんだったとか?
わからない。
この男達の行動も、私がこれからどうなるのかも。
おそらく、いいようには転ばないだろう。
…どうなるんだ、私。
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