幕末誤想事件録

□誤想、六。
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箒を動かす手を止め、空を見上げる。

「今日はいいお天気だなぁ。」

朝食の時間も終わり、雪村千鶴は屯所の廊下の掃除をしていた。

「…北上さんって、どんな人なんだろう。」

昨夜、新選組屯所に男の人が来たらしかった。

罪人や不逞浪士というわけでもなかったみたいでお茶でもお出ししようかと思ったけど、原田さんに
怪しい奴には変わりはねぇからお前はあいつに近づくな
と言われてしまった。
近藤さんから夜食を作ってやってくれと頼まれた時も、平助君が
清虎はちょっと変わってるからさ…。飯は俺が持ってくよ
と夜食を北上さんのところに持って行ってしまった。
今朝の朝食の時には土方さんにも、あいつには近づくなって釘を刺されてしまったし…。
三人とも北上さんという方を変わってる≠チて言うけれど、逆にそれが気になってしまう。
それに、原田さんや平助君以外の幹部の方々も気になっているみたい。
…特に沖田さんが。

気づけば、この辺り一帯は掃除し終わってしまった。
残すところは、

「向こうには、北上さんのいる部屋があるんだよね…。」

掃除をしていない場所は、近づくなと言われている男がいる部屋がある。
少し戸惑う。

「…掃除するだけなんだし、こちらから声をかけたりしなければ大丈夫。」

千鶴は箒を握りしめながらそちらに向かって歩き出し、掃除をまた再開する。
自分が今いる場所はちょうど角になっていて、そこを曲がれば男がいる部屋だ。
…どんな様子なんだろう。
部屋を覗くわけじゃないけれど、廊下の角から少し頭を出してみれば。

『こんにちは。』

目の前に、袈裟を被り顔には口布をつけた男の顔があった。
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