誠の武士とかつおぶし。~福猫見聞録~

□第五話
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某の上に千鶴が落ちてきた。
千鶴はすぐに退いてくれたが、気づけばさいとうはいない。
おのれ、白襟巻きめ。

千鶴はひたすら某に謝り続けている。
ひと鳴きして大丈夫だと伝えれば、なんとなく意味を察してくれたようで彼女はほっと胸を撫で下ろした。

「あの、猫さん。」

千鶴がおそるおそる某に声かける。
なぜ猫相手にさん付けなのか。

「栓議の時に聞いたんだけど、昨日の夜からずっと私の傍にいたって…本当?」

やはり、こんな猫が自分の傍に一晩中いたら気味が悪かっただろうか。

「あのね、私、それを聞いて嬉しかったの。…ありがとう。」

…そう言って千鶴は某の頭を撫でる。
嬉しいのは某も同じであった。
ゴロゴロと喉を鳴らせば、千鶴もふと顔を綻ばせてもっと某を撫でてくれた。
しばらくして、千鶴の撫でる手が止まる。
千鶴の顔を見上げれば、酷く不安そうな表情だった。

それもそうだろう。
千鶴の下敷きでよく聞こえなかったが、あの白衿巻きが先ほどの去り際に己のために最悪を想定しておけ≠セとか言い残して行ったのだ。
栓議とやらで何を言われたのかは分からないが、今の時点で彼女にとってはもう最悪の事態であろう。

「私のせいで、あなたも巻き込んじゃったのかな…?ごめんね。」

千鶴が悪いわけではないのに。
何か某にできる事はないものか…。

「私達、これからどうなるんだろう。」

…それだ。
某が外に出て、今も続いているであろう栓議の内容を聞いてこよう。
その内容を千鶴にどうやって伝えるかはわからないのだが、さっきみたいに雰囲気で伝える事も可能…かもしれないのだし。
某も外に出たいし、やらないよりかはマシではないだろうか。
猫は思い立ったらすぐ行動あるのみ。
千鶴の手に行ってきますの意味合いでほおずりをして、器用に爪を使い襖を開ける。
外に出て、驚いた顔をしている千鶴の顔に向かってひと鳴きすると某は開けた襖を閉じた。
某の記憶によれば、襖や障子は開けたら閉めるが常識なはずだ。
意気揚々と某は廊下を歩き出す。
ところで、栓議は何処で行われているのだろうか。
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