誠の武士とかつおぶし。~福猫見聞録~

□第十話
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某は武士に興味を持った。
新選組副長のお言葉に甘え、気が済むまで某はここでお世話になろうと思う。

武士というものを知るため、某はまず近藤さんと土方の会話を聞くことにした。
内容は、数少ない入隊希望者の配属先について。
話の中で、新選組にはちと財政難があり、肝心な隊士の数も多くはないらしい事もわかった。
…猫を飼うなんて状況ではないと思うが大丈夫なのだろうか。
眉間のしわが酷い事になっている土方の顔が某を見下ろした。

「…で、いつまでお前はここにいる気だ?」

某はまだ土方の膝の上にいた。
某だって、最初は近藤さんの膝の上に移動しようかと考えた。
しかし、近藤さんは部屋に入って土方の膝の上にいる某を見ると

「もう仲良くなったのか?よかったじゃないかトシ!」

なんて言いながら満面の笑みを見せてくれたのだから動くわけにはいかなくなったのだ。

「それにしても、まるで君も会話に
参加しているみたいだなぁ。」

勝手に参加しているつもりである。

「話の内容なんてわかるわけないだろ。猫なんだぞ?」

…わかっているんだが。

「いやいや、わからないぞ?この子は頭がいいみたいじゃないか。もしかしたら何かすごい事ができる子かもしれない。」

…近藤さん。
褒めてくれるのは嬉しいのだが、ちと大袈裟だと思う。
ぷれっしゃあ≠ニいうものを感じるぞ。

「そんな事あるわけないだろ。猫なんだぞ?たしかに新選組は猫の手を借りたいぐらい忙しいが、猫が隊士になんてなれないんだからな。」

遠まわしに某は役立たずと言われた気がするぞ、土方よ。
その通りではあるが、やはり悔しい。
おのれ、見ておれ般若。
某も新選組の役に立ってみせようぞ。
なんにせよ、お世話になるのだから何かしらしようかと考えてはいたのだ。
ちなみに、何をするかはもちろん未定である。
何をしようか考えていれば、部屋から近藤さんに入室して良いかと尋ねる声が聞こえた。

「失礼します。」

近藤さんの部屋に斉藤がやって来た。
ああ、苦手な人間である。
土方の膝の上にいる某をじっと見てくるのが何を考えているのかわからなくて怖い。
斉藤は巡察での結果報告をしに来たらしく、それが終わるともう一度こちらをちらりと見た。

「…副長、新八らがその猫がいなくなったと騒いでいたのですが。」

「あいつら、まだコイツの事で騒いでやがったのか?…そういやまだお前の名前を考えてなかったな。」

某に名前はまだない。
なぜか急に近藤さんが立ち上がった。

「そうだ、その事で話があるんだ!永倉君達は雪村君の所にいるのかね?」

斉藤がそうだと答えれば、話し合いも済んだところだからみんなの所に行こうと言い出した。
もちろん土方や斉藤も道連れである。
近藤さんの足元に行こうとしたがちょろちょろするなと土方に抱き上げられた。
ちょうど斉藤と目が合う高さだから気まずい。
さっきからちらちらと斉藤に見られているのだ。

ぞろぞろと部屋を出れば、

「おや、三人ともどうしたのです?猫も一緒なのですね。」

廊下の向こうから山南敬助が歩いてきた。

「ちょうどいい、山南さんも少しついて来てくれないか?」

近藤さんは山南さんも連れて行くらしい。
…千鶴の部屋では人数的に狭くなりそうだなぁ、なんて考えながら某は近藤さん達と一緒に千鶴の元へ向かうのだった。
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