誠の武士とかつおぶし。~福猫見聞録~

□第十一話
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遠くから聞こえる小鳥のさえずりで目が覚めた。

しばらくそれを聞いて微睡んでいたが、横になっていた座布団から起き上がり、ゆっくり伸びをして眠気覚ましに顔を洗う。
部屋の中央の布団には、千鶴がすやすやと寝息を立てている。
…そうだ、某はこれから新選組のお世話になるんだった。
これから某はねねこ≠ニして生きていくのだ。
寝床にしていた空家に比べれば居心地は良いが、まだ慣れていないからか随分と早い時間に起きた様である。
部屋の外はまだ少し薄暗い。
ここで暮らす以上、早くこの場所に慣れなくては。
今の時間帯は人はまだ眠っている。
今のうちに探索でもしてみよう。
寝ている千鶴を起こさない様にそっと襖を開ければ、壁に寄りかかって座る男の影。

『…新八か。』

そうだ、千鶴は監視されているんだった。
…寝ていてもいいのか、新八よ。
隊務もあるし疲れているのかもしれない。
大変そうだとは思う。
寝ている新八の腕に労いの意味で頭を擦り寄せれば彼の指にある傷が目に入る。
これは先日、某が引っ掻いてしまった傷だ。
あの時は悪い事をした。
顔を近づけてそれを見てみれば、傷は塞がっていて腫れも化膿もしていない。
良かった、大丈夫そうだ。
新八の指先にもう一度頬を擦り寄せ、某は廊下を歩き出した。
…実はこの時、新八は起きていて歩いて行く某の姿を見ながら嬉しそうにしていただなんて、全く気がつかなかった。

平隊士達のいびきが大音量で聞こえてくる部屋の方面を一通り探索し終わった。
まぁ、平隊士に良い思い出はないからあまりこちらに来るつもりはないが。
昼間になれば日当たりの良さそうな縁側や、井戸や大きな蔵の周りなんかも見て回った。
後はどこを探索しよう。
組長達の部屋の方にでも行こうかと思っていたが。

『…勝手場か。』

新選組の台所事情は少し知っておきたい。
勝手場に入ってみれば、男しかいないのならこれぐらいかと思う程度には物が散乱していた。
大所帯であるしな。
だが、そのわりには食材は少ない様に見える。
やはり余裕があるわけではないらしい。
尚更、某が迷惑をかけるわけにいかない様だ。
某にかかるであろう経費を削らねば。
例えば食事だ。
某は特に食にこだわりはない。
死なない程度に食えれば良しとする生活をしてきた。
汁物の出汁にでも使った煮干数本を一日に一回でも十分なのだ。
食い足りなければ自分で小鳥なり鼠なりを捕まえれば良い。
…時々、鰹節は欲しいところだが。
この時間なら、そろそろ朝餉を作る人が来て、汁物を作るときに煮干でも使うだろう。
使い終わったそれをいただこうではないか。
行儀良く待っていた方が良いのだろうが、普段より早く起きたからか少し眠い。
勝手場の奥を見れば、床に何も入っていない籠が。
これがいい具合に深くも浅くもなく、大きさも某が丸まって入るにはぴったりの物であった。
しかも新品ではなく、ある程度使われているが古くはないというのが某からして魅力的だ。
試しに入ってみれば、予想以上に寝心地が良い。
こうなったら、しばらくは動くのが億劫である。
…勝手に使っていたら怒られるだろうか?
その時はその時でどうにかしよう、もう眠くて仕方がないのだ。
某は勝手場の隅で気持ち良く眠りについた。
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